夕の寂しさ

小田原駅から大雄山鉄道に乗り換え終点までゆき、そこからタクシーで10分
ほどの所に「小さな美術館」という名の画廊がある。

数年ぶりに会うが、先生はとてもお元気そうで以前と少しも変わってなかった。
先生からすれば私は客の1人であり、私がかってに「心の師」として慕ってい
るだけである。
先生はコーヒーを手ずから入れて私をもてなして下さった。
その昔、真鶴の画廊喫茶の折、私が注文した飲み物とまったく違う飲み物が
出てきた事を思い出し懐かしく思った。

画廊に誰もいないときは女の話に花が咲く。
私も前職を明かしており、先生もそっちのほうも現役なのだ。
若い頃のお話から現在に至るまでの盛り話を楽しそうにお話される。
言い様によっては、私と先生は客という立場を通り越した間柄でもある。
私も女が変わる度に先生のところへ連れて行ったし、アキの時もすぐに受け
入れようとして下さった。
今回も先生から別の件で特別な注文があったので、期待に応えたく思っている。
ただ今回はお別れの挨拶のようなものでもあったので、その約束を果たせる
かどうかは分からない。

「また来いよ!」と、いつものように激励して下さったが、別れ際に、いつも
しない硬い握手をされたので、先生も薄々気付かれているのかもしれない。
私が遠くの職場へ行くことになった事を言わなかった方が良かったのだろうか?

お土産として、お願いしていた品の他にいくつもの「書」をいただいた。
今度はいつ先生とお会いできるのか、いつかは来るのか?
そんな寂しさを背に残し画廊を後にした。

外へ出ると5時ぐらいだというのにもう真っ暗。
そうか、もうこんな季節なんだなぁ・・・冬至だからな。
一年で最も日が短くなる12月、年末の足音も聞こえだしている、なんか焦るなぁ。

281849(196) H24 12月7日  PM23時5分