前へーオイヤ!! オイヤー!

小学生も上級生になると、担任以外の教師が体育の時間を担当する。
私が小学生の頃は個性のある教師が多かった。
5年生の時赴任してきた体育の教師は「山本先生」だった。
見るからに体育会系の教師で、当時体育会という意味を知らない私達
生徒は漠然と「怖い先生」の中にランキングしていた。
その教師の特徴は、独特な号令にあった。
普通、「前へナラエ!ナオレ!」だが、「オイヤー!」なのだ。
「前へオイヤ!! オイヤ!」と、気合の入った号令を掛ける。
当然、仇名もオイヤーだった。
「オイヤー」の号令が掛かると、私達はおかしくて噴出しそうになり
ながら体を震わせて、整列をしたものだった。
ある遠足の日のことだった、その日も「オイヤー!!」と、気合の入
った声が響いていた暑い夏の日だった。山道を登っていた時だった
一人の女性徒が鼻血を出して倒れた、日射病だったのかもしれない。
私達の時代は現在と違い、軟弱な者は少ない時代だった、だから突然
倒れるなんて皆見たこともない、倒れた子の周りは騒然として人だか
りとなり、どうしてよいか分からず教師さえもオロオロしていた。
そこへ颯爽と登場したのがオイヤーだった、倒れた女生徒の半身を抱
え起すと、いきなり首の後ろへ空手チョップの連打!!
そして唖然と見守る私達に「これで大丈夫だ、木陰で休ませておけ」
と静かに言った。まるで救世主が現れたような光景だった、去ってゆ
くオイヤーの後姿も妙にカッコよく私も心の中で「オイヤー」と喝采
を贈っていた。
時が経ち私も中学生になりオイヤーの事も忘れかけていた頃だった。
その頃になるとプールの授業で見学をする女生徒が必ず何人かいる。
生理でプールに入れなかったのだろうが、私にはその知識がない。
水泳が得意だった私は、見学している子たちが可哀想に思った、そし
て間の悪いことにオイヤーの治療法を思い出してしまったのだ。
具合が悪いのだろうと思った私は、ちょうどその中に私の好きな子が
いたので、「体の具合が悪いなら俺が治してやろうか」とばかり、その
子の首に空手チョップをおみまいしたのだった・・・。
勿論、私は好意のつもりだったが、その子に嫌われたのは言うまでも
ない。
「生兵法は大怪我の元」というが、まさにその通りの展開になってし
まった失敗談であるが、後々まで生徒に影響力のある個性的な教師が
現在ではどの程度いるのかと、思ったからだ。
そして、そういった指導者を求めているのが現在の世の中ではないだ
ろうか?
みのもんた細木数子)あのようなタレントが、大衆にうけている
理由はそうなのだろう。
お笑いブームで、馬鹿なお喋りもたまにはいいが、私としては渇を入
れる側にありたい。それが望まれる時代に違いないのだ。

2815(105)               PM4時25分