お友達は心の薬
昨日は誰からも一本の電話もメールもなかった。
私も体調が思わしくなく、一歩も部屋を出る事もなくTVを
観ながら一日を過ごした。
つい先日までは、撮影や営業で忙しくし、合間を縫って夏美
とも楽しいひと時を過ごせたのいうのに。
これが精神病を完治してないだろうと思われる典型的な症状。
食事も摂りたくないし、実際に腹も減らない。外出する予定が
なければ一日中でも部屋に篭り、自分から用事を作ろうとか、
仕事を求めて営業に行こうなんて気持ちにもならないのだ。
性欲も全く無くなる、オナニー好きの私の筈だがプライベート
でも勃起すらしなくなってしまうのだ。
こんな時にスカウトマンが来たらどうしよう?とか、夏美から
素敵なお誘いがあったら困ってしまうよなぁー、などと不安な
妄想ばかりでプラス思考にならないのである。
仕事についても、やっと出来ない体になれたなどと、引退の理由
を体よく考え出す始末で、今回もまる一日誰からも連絡がなかっ
た事を内心は快く思っていたりもする。
実際には誰からも連絡がなかったという事は、誰からも必要と
されてなかったという事で、焦るべきであり悲しむべき事だ。
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「これじゃいけないな」と感じ、夏美に電話してみたがルス電。
「やっぱりか・・・テープも壊しちゃったしな・・もう俺と会う
必要ないしな・・・」などと暗い気持ちで昼過ぎまでフテ寝。
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4時ごろ一日ぶりに電話が鳴った。
「お電話いただいたみたいで・・」と夏美の上品な喋り声!
「いや、用事はないんだけど暇だからさ・・どこにいるの?」
そう尋ねる私に、
「池袋の西部でお買い物してるの、新商品の化粧品よ」と夏美。
「あれっ?!そうなの?池袋に来てるなら連絡ぐらいくれなきゃ、
まったく水くさいね、そんで時間あるの?じゃ今から行くから」
と、さっきまで暗い気持ちで引きこもっていた自分をすっかり忘れ
て愛車沖ちゃん号をかっ飛ばしている私だった。
・
別に夏美が来るように要請したのでもない、私はただ会いたかった
だけ。単に買い物の荷物もちを手伝いたかっただけ。
夏美は丁度買い物が終わったところだったらしく、待ち合わせ場所
に手提げ袋を2つもぶらさげて現れた。
いつも不思議に思うが、彼女とはいつも高価な買い物をしている場面
で出会う。元々私と出会ったきっかけは、自由になる小遣いが少ない
からではなかったか?分からないが、よほど裕福な家なのだろう。
・
喫茶店に入りお喋りをした。
彼女はこの後、6時からお友達と渋谷で集合だそうだ。どんな友達
なのか気になるところだが、それには触れず今度どこで食事をしよう
かの話をした。
夏美は銀座の創作料理の和食のできるところで、聞いたことのない
店名を言いだしたので、「そんな超がつきそうな高そうな店はダメ
座っただけで3万円ぐらいしそうじゃんか、俺みたいな貧乏人には
とても敷居が高いよ」と断ると笑っていた。
私が「温泉か紅葉でも見に行かない?箱根あたりに?」と言うと。
「え〜?二人じゃダメよ、アキさんも誘ったら?」
などと警戒する夏美、確かにドライブだと街道沿いのラブホテルや、
人気の少ない山道などは豊富だ。そこで私は行き先を真鶴へ切り替えた。
「アキとはこの前行ったばかりだし、夏ちゃんとドライブした
いんだよ、知り合いの人間国宝級の書家の先生にも合わせたいしさ。
その人の作品、ルーブル美術館にも展示されているんだぜ、夏ちゃん
が一番好きだと思う字をアートで書いてくれるんだよ、人間国宝の
書いた「書」だぜ、書いて貰うように頼んでプレゼントするからさ。」
私がそう一気に押して言うと、高級品好きの夏美もルーブルという事葉
に反応したのだろうか、手帳を取り出してスケジュールを確認していた。
私はそれだけである意味満足した、押しに弱いというお嬢様の特性が
出会った頃のままだったので、それがとても可愛かったからだ。
・
そんな楽しい会話の最中に突然一本の電話が。
相手は私の取引先の中でも一番重要な相手だった。
電話内容は大体さっしがついていた、案の定今までの取引枠を縮小した
いとの申し出だった。先月からそういう話になっていたので、そこで私
もここ最近新規の営業をし、その補填活動をしていたのだった。
もうあまり鬼畜系の撮影はしたくないと思っていた矢先だったので、直
ぐに私も承諾し話は付いた。
取引枠の縮小は、私の生活にも直結する。より一層余裕もなくなるという
事である。そうなれば毎月のようにいた夏美や紀恵のような例外者も、
今後は認めることは出来なくなってしまう。
キッチリ仕事をさせ、容赦なくテープを納品せざるを得なくなるだろうが、
それは嫌だ。今後も新しい仕事への営業をして、今まで以上に枠を増やさ
なくてはならないだろう。
一時的に仕事で損をしても結果的に落着し、その後の人間関係を築けるよ
うな余裕や包容力を保てるようにしなくては、私自身この仕事を続けられ
る自信がない。
夏美もアキに次いで、やっとお友達として一歩を踏み始めたばかり。
生活や利益の追求も大事だが、それよりも友情のような心の安らぎを求め
たい。将来そのことの方が価値を上回るであろう事を、私は信じる。
・
私が電話を切ると、夏美がしきりに6時に会う友達の話をしてくる。
どうやらその中に、夏美の彼氏なのか、気になる男がいるようだ。
人の気も知らないで・・・子悪魔的な夏美だ。と、思う反面、いやいや
これが友達としては普通の会話なのかな?とも考えたりもしている。
ともあれ来週の金曜日に、夏美と二人で真鶴へドライブする事になった。
・
「晴れだったらにしようね」と、私が言うと夏美は手帳の金曜日のとこ
ろに晴れのお天気マークを書き込んでいた。
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80986 11月30日 PM11時55分