崖の上

植栽の現場が一段落、仕上げの段階に入ったようだ。このような時期になる
と男手の必要な力仕事は必要なくなりバイトである私も一段落となる。
今度呼ばれるのは何時だろう?
「思ったより体力持つわね」「おっ続いてるジャン」と、皆に少しずつ認め
られつつあった私だった、肉低的にはキツかったが休憩や休日を休息と実感
できる有意義な日々であったように思う。
一段落してここ2,3日筋肉痛もようやくなくなり、こうしてブログも書く
気になる余裕がでてきた。

他の仕事をやってみて強く思った事、単純だがそれはどんな仕事であれ大変
だってことだった。
私も一時は人の羨むような生活をしていたが、どうしても心からAV関係の仕
事を好きになれず、心の中で否定し続けていた。そして何もかも捨て去りた
いという願望を持ち続けていた、AV関係だからこそできた贅沢や安定した収
入や生活であるにもかかわらずに。
離婚した妻には贅沢をさせた、横幅が2メートル以上ある大型のクローゼット
に収納できずカーテンレールに何着も吊り下げられリビングルームはいつも薄
暗かった。そういった収納出来ないほど買った服は一着50万ほどするシャネ
ルのスーツであり、「いったい何回着たの?」と、よく夫婦喧嘩の種になった
もんだ。でも娘が生まれればそれでもいいかと我慢してた、古いブランドとは
あまり流行に偏らないので次世代でも通用するからだ。これは大袈裟な話では
ない、今でも新宿伊勢丹の2Fにはシャネルのテナントが入っているのだろうか
?あるならばきっと私の本名の性の部分は上客リストに名を連ねているだろう。
まったく無駄金だった、服だけで都内でマンションが買える金額だ。私の小遣い
は月に3万円だったというのに!
食い物に至っては、スーパーで買い物をしたのを見た事がない。東武か西武で
買っていたようだ、だから愛妻料理というものがあまり記憶にない。
妻が台所に立っていることで印象に残っているのは、新婚のころ目玉焼きを作っ
てくれた。フライパンから皿に盛るとき間違って床に目玉焼きを落とすのを私は
別の部屋から覗き見したいた。そして私に出された皿は床に落ちたほうだった。
外食で高い食い物でも辟易としてくる、食い物を食いに行って食った気がしなく
なるのだ。
部屋に知人を招くと「普通の家具ではない」と言われた。確かに普通の生活では
手に入らない家具や装飾品が多かった。
そんな不相応な生活をしていても会社にストックする金額は月に50万を下るこ
とはなかった。100名以上の在籍モデルや10人以下の社員、お抱え運転手や
業者に賃金を遅延することなど一度もなかった。
奥底では嫌だったが、生活に足る分だけはと仕事をした。あの頃の生活を支えて
いたのは営業であり、また忠実に業務を遂行してくれたモデルたちの身と心を削
った努力だったのだ。その嫌である事の感覚が薄れ、それを充実と勘違いしてし
まう自分が嫌であることに気付いてはいた。
心持は中途半端な小金持ちってところだったのだろう、ちょっと見には羨まれる
ような生活であったが私は満足してなかった。生活の中で失いたくないものは
正直なところ、稀なる妻の才能と子供だけだった。
たぶん何十年もコツコツとやって得た成果なら、たとえ微々たるものでも十分に
価値を見出せるのだろう。ところがたかが1,2年で容易くそうなってしまうと
おかしな考え方になってしまうものなのだ。特に私は飽きに弱いのでゲップが出
るほどは要らない性分なのだ。
そんな折、幸か不幸か国家権力によって会社は潰された。
考えてもみればあれが真人間に生まれ変わる一つのチャンスだったのかもしれない。
少しでも罪に対して有利にしようと妻の提案で連れて行かれた病院が今でも隔週で
通っている悪名高き精神病院だった。現在でこそ睡眠導入剤だけだが当時は慣れな
向精神薬をマックスで服用させられていた、知らぬとは恐ろしいものである。
私は映画「カッコウの巣の上」のような状態になってしまっていたのだ。
薬を服用し始めて私の破壊意識は急激に高まる。
まだ息をしていた会社の財産や家庭までも破壊してしまった。そして離婚後も妻と
接触を取り続けた、妻の才能をどうしても捨て切れなかったからだった。そして
今度は私が提案した、「その才能と人脈を活かして探偵会社でも立ち上げてみろ」と。
その案は見事に的中した、経費やノウハウは私が提供したが妻は自ら陣頭指揮をとる
ようになり、わずか一ヶ月で月に100万の利益をだすようになった。勿論私には一
銭も寄こすような妻ではないが私も離婚の手切れ金だと思って起こした事業だったの
で未練はなかった。
私は私で破壊してしまったプロダクションの残片をかき集め新たなる事業を開始した、
それがAV制作の仕事だった。向精神薬をマックスで常用している時期である、女を恨
み人を呪い自分を滅したいともがいていた時期である。
尋常な作品など出来るわけもない、異色な作風が出来て当然である。
なにしろスカウトマンが連れてきた素人をその場で撮影し、初回の撮影は講習だから
と、ギャラを払うどころか一律に講習料として持ち金をまきあげていた。そんな中で
制作された「鬼面接」はビデオショップ「ゲオ」にて週間トップになり、業界で噂と
なり雑誌社もよく取材に来た。雑誌社で板本(DVD付の成人向けの本)の仕事をすれば
読者アンケートで一位になり(クレームの電話も凄かったらしい)、別の2作品では
AV全作品を評価するAV業界では一番権威ある某業界誌の上半期における評価のベスト
2位、6位に入り「新人監督賞」なるものまで貰ってしまった。

なにか自慢話か武勇伝でも聞いているようか?
それは違います、私は嘆いているのです。
飽き飽きといていると書きたいのです、さぞかし儲かっただろうって?
とんでもない、並以下の地を這いずるような生活ですよ。
話を元に戻しますが、人が10年かかっても成せない事が、たったの数年でやれてし
まったら価値を感じるだろうか?それを人は「才能だ」なんて煽てるが、私にすれば
「煽てて木に登らせやがって」と、言い返したい。本気で才能だと認めるのなら、そ
れなりの対価があっていいのではないか?銭金の話はあまりしたくはないが、微小な
対価で煽てられ、その仕事を生活の糧としていかねばならなかった私がどんなに苦し
かったか。
だからAV関係は浅はかだと言うんです、趣味でやるにはいいかなぁと。
私は器用貧乏なところがあり、昔からそうなんだけど力を発揮すると、ちょっとした
事ができちゃうタイプなのです。10代の頃飛び込んだ飲食業界のすし屋では、そこ
のオヤジが20年努力してもできなかった「アジの活け作り」お客に出すまでに口が
パクパクしているアレね、アジって魚は弱いからすぐ動かなくなるんだよ、だから研究
して極めたんだ。水槽から出して〆るタイミング、内臓を傷つけないようアバラを紙一
重で残し、肝心なのはアジをさばく時間ね、盛り付けまでが自己最短で30秒ちょっと
だったかな。「お待ちどうさん!」ってお客に出すとき心の中でアジに言っていた
「お前はすでに死んでいる」って。あの頃の私の仕事姿はきっと格好良かったと思うよ。
でもそんな私の仕事ぶりに嫉妬してか、女将のヤツ「魚の口が動いて気持ち悪い」なん
て言うんだぜ!オヤジも何にも言ってくれないし、まったくヤツラ俺の人生を狂わせた
ネジの一つだよ。だからついでだから書いておくけど、そのすし屋を紹介した高校時代
の親友も縁を切ったんだ。当然だよ、そんな店を紹介したんだから。

AVの現在進行形の話でもそうだよ、HEY動画ってサイト。あのサイトはモザイクなしで
古い老舗が数多く、作品数も多い。強力なライバルがいて当然の筈だよね、そりゃ凄い
のもあるよ、でもコメント数で勝負するなら私の作品は第三位だよ。もう三位だよ、一
カットだけで44コメントあって32位なんだよ、たった17分の一カットのコメント数
(関心度)で既にそれなりの評価が出てしまっているんだ。他社さんは2次使用、3次使
用とか言い訳をするかもしれないが、それを言うなら私の作品は売れ残りの端材で勝負し
てんだかんね。じゃあ実際に実益はどうかって?笑わせちゃいけないよ兄さん!アンタ方、
幾ら制作費使ってんの?その金額で私が作ればトップとってやるよ。
こっちはちなみに今までの経費は編集込みで0円だよ〜!!
どうだ、参ったか・・・・・。

この虚しさが分かるだろうか?
今日は暫く日記を書けなかった鬱憤晴らしも含めて、ちょっと意地悪な言い回しもしたが、
少しは気が晴れた。
実は本当の憂鬱というか心配事は他にもあり、何を隠そう夏美の事だ。
彼女はトルコ人の彼氏と同棲しており、その彼氏はイスラム教。イスラムの事はあまり詳
しくないが、夏美の話しによれば儀礼上の婚約をしているらしい。つまり彼女はもう人妻
らしいのだ、イスラムの風習として思うのは男尊女卑を想像する、SEXも前儀もなしで下手
だそうだ。下の毛は不浄のものらしくパイパンにされたそうだ、現在住んでいる世田谷の
マンションは彼女が契約し家賃や生活費も彼女が多くを負担しているそうだ、その為に風俗
で働いているらしい、彼氏はそれを知らないらしい、3月に彼氏のビザがきれて帰国しなく
てはならないので、一緒に彼女もイスラムの国へ行ってしまうかもしれない(彼女の両親は
何も知らない)。もともと何故、何一つ不自由のない裕福な家庭の彼女がそうなったかと言
えば、親に「もうこれ以上お金をかけられない」と、引導を渡され一人暮らしを始めたとこ
ろに彼氏が現れたようだ。思うに、勢いで一人暮らしを始めその寂しさから異国人と付き合
い異文化と接して、初めこそ新鮮さを感じるだろうが果たしてその先は?彼女は毎日相談の
電話をしてくる。
「お店に来て」から始まり、「今のお店稼げないから紹介して」まで。
時々テレフォンSEXでからかったりしてやるが、風俗をしているせいか昔ほどは濡れない
そうだ。
最近では深刻な相談も多い、ストレスで10kg太って2年前と顔も変わった、老けたし恥
ずかしいから私とは会いたくないとか。3000円分も食料買い込んで一晩で食べて苦しい
とか、お金がないと言いながら机やカーペットを衝動買いしてしまったとか。
明らかに夏美は昔の夏美ではないようだ、電話で話していても壊れかけている女のイメージだ。
私は彼女に冷静になるように実家へ帰って頭を冷やすように勧めるが聞かない。実家に対し
意地を張っているのだ。
今日の日記で私の過去(結婚の頃)をズラズラと書いたのはここに意味がある。私の失敗と
夏美がこれから失敗するであろう事がダブってこないか?
それが日本ではなくイスラムの国であればどのような事態になるか?
夏美が幸せになれるとしたら、彼氏を心底愛しイスラムの教えにも忠実であり、尚且つその
気持ちが持続しなくてはならない。わがままな夏美にそれが到底できるとは思えない。私も
周期的な瞬発力はあるが持続力に難があるのでよく分かるのだ。
「でも彼氏は大事な人なの」とメールされ、何とも言えない複雑な気分だ。
これも全てアッラーの思し召しというヤツなのだろうか?
10kgも太れば元々小柄なきゃしゃだった夏美もポニョだな、たとえ姿はポニョでもいい、
老けていたっていい、あの2年前の生意気で子供っぽいしゃべり方はちっとも変わってない。
私には今でも夏美は特別な存在だ。
サーティーワンのチョコミントをもう一度二人で食べたい。
溢れるほどによく濡れる体も敏感な大きめな陰核も、あのコリコリ感やあえぎ声だって忘れ
たりするもんか。それにそんな事などどうでもいい、私の前から私が愛した女がまた一人去っ
て行くのか・・・という絶望感の方が大きい。
こういう切ない苦しさなら、植栽の雪中作業のほうがマシだ。
ささみの時は祝福したやったが、今回はその気になれない。
寂しいぞ!夏美。

アキの事も書こうと思っていたが、もう少し気力が充実してから。

156875  H22 2月12日 AM1時45分