特別な

数日前夏美が川口の自宅へ遊びに来た。
その日彼女は風俗店へ出勤しようといていたが生理になってしまい暇を持て余していた。
私とは赤羽で落ち合い、赤羽の東口にある商店街にある回転寿司で昼食を食べた。
ブラブラと目的もなく歩いて、その近辺に小さな公園があったのを思い出し行ってみたが、
そこにはマンションが建設中だった。公園があればそこのベンチで恋人のように抱きしめ
て心地のよい昼下がりを過ごそうかと思っていた。公園がなかったので、じゃあ川口でゆ
っくりしようと誘ったのだった。
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川口駅前からバスに乗り込み自宅へと向かった。考えてもみればその瞬間が幸福の絶頂
だったような気がする、今から夏美を自宅へ連れてゆくというワクワク感だけだけど。
夕刻には帰らなければならない彼女だし、その時間は刻々と迫るものだ、そして次回もう
一度川口に彼女が遊びに来てくれるという保証はどこにもない、だからバスに乗り込んだ
あの時が絶頂の瞬間だったのだ。
「たぶん今が一番だよ、時が止まってほしいな」と私は言ったが、彼女はその意味を解っ
てなかったと思う。
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バス停で降り、近くのコンビニで甘いものと飲み物を買い家へ。
家では私を出迎えたはずのメイが、突然の来客に驚いていた。夏美は生理のせいか、その
日は終日おとなしかった。ずっとベットの上に座ってメイを見ては「ニャ〜ン」などとや
っていた、メイも珍しく初めての客に「ニャ〜ン」と鳴き返していた。
私もまた特に何もせず、洗濯を干したりベットにゴロゴロしたり、たまに夏美にじゃれたり、
まるでメイが普段私にするようにしていた。その日の彼女の下着はTバックで派手な色だっ
た、海綿とタンポンで処理をしているらしくナプキンによる膨らみもなく匂いもなく黙って
いれば生理であるとは思えなかった。
抱きしめて唇に軽くキスをしたら「今日はキスとかしない約束でしょ」なんて言うから、
「こんなのただのチュじゃないか、キスってのはこうやるんだ」と、強引に唇を塞ぎ舌を口
の中に差し込んでベロベロしてやった。彼女は困ったようにか細い声で「やめて、やめて〜
嫌ァァァ〜・・・」と泣きそうな声で拒んだ。
私は2年前同じように叫ぶ彼女を押さえ込み初AFの撮影を敢行したことを思い出し勃起し
たが、それ以上は何もしなかった。
そう、性欲よりも彼女の傍でまったりとしている安息感と、迫り来る別れの時間への恨みの
ような気持ちのほうが強かった。
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40過ぎのオヤジが、今更色恋沙汰でもあるまいし・・・そう思われるかもしれないが、私は
PCの脳内年齢なるゲームではまだ20代後半という数値が出る。と言うことは私はまだこう
いう気持ちを持っていても不自然ではないんだと思う。などとくだらない事を考えたり、彼女
と日常の話をしたり、仕事の話もちょっとだけして、ただ何となくボーと彼女との貴重な時間
を過ごしてしまった。
彼女のその日の横顔は「うさちゃん」みたいな草食系のようだった。可愛過ぎて食べたくなる
ってあるが、そんな感じで可愛かったので
「今日からSMの調教に入る、1週間は家に帰れないからな!」って脅してやった。彼女はそ
れを聞いて急に心配になったのだろう「もう帰る、帰る帰る」と言い出してしまった。
仕方なく彼女をバス停まで送って行った、まだ約束の時間までは1時間もあったが。
馬鹿な事をする奴と私を笑う人も多いだろう。馬鹿な脅しなどするからだと、しかしそれは十
分承知の上なのだ、刻々と迫る彼女との別れの時間に私は耐え切れないだけだったからだ。
「いい人」を完璧に最後まで装えるほど私は紳士ではない。
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次の日もその次の日も、彼女から電話があり長いときは1時間以上話をした。
その電話で、私はついにある決定的な事を言ってしまったので、それを書きたくて今日はブログ
を書いている。
彼女からの電話の内容は、とりとめのない日常の話や彼氏君との生活習慣の違いや、昼間のバイト
での人間関係など。私はそれらの井戸端会議の方向を仕事方面へもってゆく。
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「今度SM教えてやるよ、その紹介する店は稼げるけどあまり親しくないんだ」
「へぇーそうなの」
「だからさ、紹介する子を調教しているシーンをビデオに撮って、このくらい調教しましたよっ
て店の人に見せてから紹介してるんだよ。」
「え〜!!ビデオはやだやだ!!」
「初めて出会ったときはAVやれたじゃないか」
「今は違うの、あの時はスカウトされたばかりで分からなかったの」
「分かった、じゃあ撮影はしないから、俺の言う通りにやれよ」
「う〜ん・・・」
「俺の言う通りにやれば稼げる女になれるんだぞ、また川口に来な」
「痛くない?」
「な〜に死ぬわけじゃないし、慣れだよ、それも仕事のうちさ」
という感じで会話は弾み、結果的には彼女がホテル代も払うから私に都内まで出張調教にきてやって
欲しいという事になった。
彼女はレールを一直線に突っ走って来てくれたわけだ。
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私はこのまま彼女の協力者のような相談者のような存在で、彼女を風俗へドブ付けにする事も可能で
あった。面白おかしく笑わせながら、優しく誘えば、そして金の匂いをチラつかせれば、たいていの
女はいう事を聞く事も知っている。
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だから、私は最後の試練として彼女に愛を渡した。
彼女は婚約者と暮らしているが今後に不安をもっている。
そのイスラムの彼氏君を愛しているそうだ。
私も彼女を自分に振り向かせたいが、彼女にとり私は相談役以外の存在ではない。
であるなら、彼女と彼氏君との恋愛を見守るのも一つの愛ではないか。
危なっかしい私側の世界を勧めるより、遠ざけることが愛ではないか?

そこで、こういう内容の話を彼女にした。
「好きだよ」って言うのこれがは最後だからね。他の者が何と言おうと親の意見が一番正しいんだよ、
それは後になって分かるもんだ。イスラムの人と結婚してイスラム教に本気でなるつもりなのか?俺に
してみれば彼氏君の話を聞くだけで辛いのが本音だ。君のその言葉に偽りがないのならイスラムの教え
を今から実行すべきではないのか?親に本当のことを言って理解を求めるべきでは?自分で言えなけれ
ば俺が代わりに言ってやってもいい、こんな仕事すべきではない。こんな仕事をしているから成り立っ
ている生活だという事に目を覚ませ、彼氏君にも言え、そうでなければ一生秘め事を背負ったまま伴侶
となるのだ、それを受け入れるだけの器量のある人物なのかその彼氏君は?イスラム教になった瞬間に
今までの業が帳消しになるほど宗教ってものは都合がいいものなのか?神が存在するとするなら、それ
は自分の心の中だけだ。君とは友達以上でありたいが、宗教かぶれの話はお断りだ。
日本で生きてゆくためには金は必要だ、だが片やイスラム教徒、片や風俗嬢、その裏表のある君の言葉
に本当の愛を彼氏君はどう思うのか?俺はその両方の君を知って受け入れられる人間だ。

ってな感じで熱い口調で口説いた。
私はきっと破壊型タイプなんだろうな、これじゃダメだと分かりながらさ。
夏美にはこう言われた
「そういう、お前の弱みを掴んでるぞ。みたいな事を言うから沖本さんは怖い、怖いから嫌なの」と。
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その後すぐに、「な〜んてねシビアに話すとこんなふうだけどさ、考えてみりゃ
俺が名乗り出て職業を言ったとたんに大反対されるのも当たり前だしね!偉そうな事も言えないよ(笑)
俺がしてやれるのは店の紹介ぐらいだね、どの道を選ぶにしても、それは君なんだよ」と、和ませたつも
りだったが、
夏美は「私は愛を選ぶ」と言った。
その後も数分、普通の会話をしながら親しい業者はいいが、あまり知らない業者はこれ以上紹介したくな
い旨を告げて電話を切った。

あれから2日、毎日かかってきた彼女からの電話はもうこない。
寂しい気持ちもするが、これも私なりの愛情表現の結果である。結果が分かりきっていながらも自分に課
した試練である。それはすなわち私からの愛を彼女が受け取ってくれたという事でもある。
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宿命とでも言えるのだろうか?それとも破壊型と笑われるだけなのか?
こういう仕事で出会った間柄は、お互い割り切らないといけないのが定石。
感情を抑えられない私はまだまだ未熟者だ、そしてもし再度彼女が尋ねてくれば、喜んで協力してやりた
いとも思っている。
夏美という子は、私にとって特別な存在だから。

158193  H22 3月2日  AM2時20分