新宿風林会館

昨日の夕方から夏美と会っていた。
冷え込みも一段と増した新宿の区役所通りを、風林会館の方へ歩いてゆ
くとバッティングセンターがみえてくる。道の右手には花屋があり、そ
の奥はラブホテル街。煌々と妖しげな光を放つホテルの群れには眼もく
れず二人は先を急いでいた。区役所通りを更に進むと、大きな交差点の
手前に鬼子母神社がある。その神社は知る人ぞ知る、多種の日本桜草を
育てており、2月になるとその株分けをした日本桜草の苗を分けてくれ
るという事でTVにも取材されたことのある神社である。私も幾度とな
く分けて貰おうと思いつつ、毎年時期を逸しているのである。
でもまぁ、そんな話も花に興味のない夏美に話してもしょうがない。
今回の目的地は、その神社の信号を渡ってすぐにある「松屋」という店。
松屋」と言っても、普段私がよく行く牛丼屋ではない。
神社の信号を渡って、進行方向へ真っ直ぐに伸びている細い道を少しい
くと右手にある韓国料理屋である。
寒い日は温かい煮込みでも食べようと、区役所通りの入り口にあるミスター
ドーナッツで待ち合わせをした私たちは、会話もロクにせず寒い道を松屋
に向かって一心に歩いていたのだった。
松屋という店は、客が多いときは敷地内に設けられた中庭か屋台の様な
場所に席を取るしかないが、その日は時間も早かったのでおあつらえ向き
に店内に席が取れた。
私は殆ど韓国料理の名前を知らない。
店員にお勧めを注文すると、動物の骨が山盛りに入った鍋とヤカンが出て
きた。
鍋の中身は豚肉の背骨だそうで、ヤカンにはドブロクのような酒が入って
いた。その後カクテキも出てきて、それをツマミにするらしい。
骨の鍋が煮立ったころ店員が来て、鍋の中身をかき混ぜてくれた。
夏美は骨の料理の名前を知っていたらしく、何とか?聞き慣れない名前で
あったが今は思い出せない。
その骨煮込みは骨に所どころ付いている肉やスジを食すもので、見た目
ほどは量がない。だがドブロクを飲みながら時間をかけて丁寧に食べてい
るうちに程よく満腹になる代物だった。「いのちの食べ方」という映画が
あるが、それの手本になるような料理である。

店を出た二人は、タクシーを拾い池袋の事務所へ。
「もう泊まりにはいかない」と言う夏美に「3回目の正直だから」と説得
して今回やっと食事に来て貰ったのだ。
過去2回の宿泊では男女の関係をしてしまったので、今回こそは私が男の
我慢の証を実行するという研修の様な一夜なのだ。
布団に入り、自分の好きな相手が風邪を引かないように抱きしめて、その
上で我慢という重責を担って・・・・何と言う事だろう、こんな事なら
布団を一組新調しとけば好かった・・・などと、うずく体をいさめながら
の我慢我慢の一夜だった。
そりゃ私だって男だから、ちょっとはジャレた行為もしたけど、その度に
彼女の手厳しい叱咤の声に我に返ったものだった。

今日の朝、無事?に研修を終え、
「どう?今回は本当にSEXしなかったでしょ、約束守ったでしょ?」
と言う私に夏子は、どうでもいいといった、投げやりな感じで
「はいはい、良くやった・・・でも当たり前でしょ」などと答えていた。
どういう理由や約束があろうとも、女が男の家にしかも一組しかない寝具
で一夜を過ごすのだ。それを承知で女は約束と言う前提で泊まるのだ。
逆説に深読みすれば、何もないでは期待にそぐわぬ結果なのかもしれない。
男らしく約束を破るのが正解だったのかもしれないが、敢えてそう喋る。
まったく馬鹿らしくて笑えない会話ではあるが、この様に私は時々思いっ
きり馬鹿になって相手に虐げられたいと思う時がある。
その衝動はストレスからくるのか、寂しさなのか、両方なのか?わざと馬
鹿になっておどける私を、彼女は暗に察してくれているのかもしれない。
たまたま私は、そういった衝動を叶える相手がいるから良いもので、それを
果たせぬ者は捻じ曲がった心を芽吹かせたり、犯罪に手を染めるのだろう。
私はそういう意味で、彼女の友情に対し改めて感謝しているのである。
その友情に甘えて、いつまでも同じ様な事を繰り返しているようでは、そ
れは本当の馬鹿であり嫌われるのも了解している。
彼女にも借りを作ったと思っているので、その清算方法は何がベストである
のか思考中だ。

ここのところの日記もそうだが、去年の12月初旬からもう1月の中旬だと
言うのに私は一度も仕事をしていない。
今年に入ってから会った人も、夏美以外では将棋友達の一人だけだ。
今月の20日までに納品しなくてはいけない事を、すっかり忘れていた。
そろそろケツに火が付きはじめた感がする、そろそろかな?みたいな鈍い
判断力にも、ようやく「そろそろ動けよ」みたいな声がしてきた。
取り敢えずは現状維持だろうが、やるしかないし、面倒くさいけど、生きて
いかにゃならんからな・・・。
まだ気力が充実しないが、少しずつ始めようかと思う。

90240   1月18日  PM6時45分