喜怒哀楽 3
生暖かい曇り空、あの子もこの空を眺めているのだろうか?
ヒロ君からの返信は、返ってこなかった。
―前妻の話―
今日(昨日)入院したわよ。分裂症と診断されたので、強制入院なの。
親族でないと面会も許可されないんよ、私なんかもね建物に入るまえに荷
物検査されたり守衛なんかもいるんだよ。エレベーターも許可なしでは動
かす事ができなくて、完全に隔離病棟ね。強制入院だから自分の意思じゃ
退院も外出だってダメなんだって、1〜2ヶ月は出れないみたい。ヒロ君
も病院内をみて呆然としてたわよ、私も担当の先生と話すとき、ヒロ君が
可哀想で泣きながら経過を話したわ。
ヒロ君には言ってあるの「私は絶対にヒロ君の味方だからね、ここを出た
ら好きなように自由にさせてあげるから、ゆっくり治療しな」って。
・
鬼の目にも涙というやつか・・・。
アイツの話は本当だったようだ、私ももっと早く気付いてやるべきだった。
前妻は二度の離婚と三度の結婚をしている、つまり彼女に家庭崩壊をもた
らす何らかの要因があることは明白だ。私が知ってるだけでも過去に前妻
と付き合っていた男性が3人も自殺したりして死んでいる。私の過去など
遠く及ばないほど、前妻の過去は凄惨なのだ。それでいて権力の人脈を確
保しているアイツ自身は法に触れる事もなく世の中を泳いできた。鬼嫁と
いう言葉があるが、前妻こそその言葉に相応しい人物だと私は断言する。
・
別の解釈をしてみよう。
大暴れして手の付けられない子供ではなかった筈だ、今の父親とソリが合
わなかっただけだろう。それも前妻から聞いた話で実際はどうなのか私に
は分からない。もしこのまま離婚しないのならば、放任したまま成長して
しまった家庭内の邪魔者(ヒロ君)を、体よく隔離病棟に閉じ込めてしま
ったとも考えられないだろうか?事実、自分の子供をあんな病院に連れて
行くのも不自然ではないだろうか?他に幾らでも手段はあった筈だ。
私との結婚当時の過去と照らし合わせ、そんな疑問を抱いている。
・
そんな前妻でも、ヒロ君にとっては母親だ。前妻が私に助けを求めるなら
ば私は警戒しながらも、全力で協力してやるつもりだ。
「また探偵でもやるか?ありゃオモロイ商売だよな」私が誘うと、「うん
やるやる!また稼ごうよ」なんて前妻は言っているが・・・。
・
ヒロ君がこうなってしまったのは、私にも原因がないわけではない。
第一に私と前妻が離婚さえしなければ、このような問題は起きなかったの
だし、離婚されるような器量の小さい人間だった私も原因の一つだ。
だからもし、前妻が今回離婚をして東京へでてくるのなら、私も余程の覚
悟で責任を果たすべく行動に取り組まなくてはならない。AVの仕事で生計
を立てつつ、探偵などで補佐しつつ、園芸の仕事を夢見つつ・・か。
やがて仕事の順位は変わってゆくだろうが、子供への愛情はいささかも変
わる事はないだろう。子供のためなら再び仕事の鬼にもなろう、それが私
の寿命を縮める結果になろうとも厭わない。
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昨日はそんな事を考えながら撮影をこなした。ボケーっとなどしてられな
い、常に体を空けられる状態を一ヵ月後にはつくっておかねばならない。
昨日、丁度連絡があったので二人を撮影。今日の4時にはもう一人。
取り合えず、来月分の撮影ノルマはこれでクリアー。焦らず、ゆっくりと
今後の展開を慎重にやってみようと思っている。
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57973(235) 13日 PM3時15分