砂上の楼閣

この時季にしては珍しい入道雲が、青空に沸き立っていた。
水道橋にある心の師である会長の事務所へ向っていた 会長は最近新し
いプロレスグッズのショップを買い取ったので、その近くに事務所も
移転してきたのだ。
私が出向いた目的は、引越し祝いにと会長に贈られた胡蝶蘭を貰いにい
くことだった。1ヶ月前に訪ねた際、贈答用の胡蝶蘭がいくつもあるの
を、花が終わったら貰う約束になっていたからだ。
今回は3鉢頂き、帰りに青山にある とんかつ屋まい泉で食事をご馳走
になり会長の自宅のある四谷まで会長を送った。その車中での会話であ
る。
信濃町を通り過ぎるころ、創価学会の話になり 学会と政治の話をされ
ていた会長が、いきなり「お前のところには撮影した女が訪ねてくるの
か?いるなら連れて来い、ああいう撮影をされた女は嫌味がなくていい
から話を聞いてみたい」と、言い出した。 会長は多少勘違いをしてい
るのだろう、私が撮影した女全てが素直な女でもなければAFを日常し
ているような嗜好の持ち主でもない。一時的に私が女達に色を染めてい
るだけで大多数は普通の子たちである。多少その気がある者は何人か尋
ねて来るが、大多数の子たちは1回キリで連絡も取れないものだ。
会長に会わせたささみは、特殊な一人である。そこで私はささみの話に
切り替えた。
ささみは介護の仕事で知り合った彼氏との間に子供ができ、時々連絡が
あるが、ささみの口から出ると思わなかった「貯金」という言葉も聞け
るようになり、女は妊娠すると母に目覚めるものですね。と話をした。
会長も「そういうところは女にあるかもしれんな・・」と言っていた。
会長の幅広い人脈の中には、介護に携わる男性も3人いるそうだ、そし
てその3人とも「女性っぽいところ」があるそうだ、「男らしい」優し
さではない別の性格だそうだ。 私はその話を聞いて嫌な予感がした。
会長を送り届けた後、予感は的中してしまった。
ささみからメールが来たのだ。
以下メールの本文を書く。
ささみ    子供下ろす事になっちゃった
返信     なんでなの?
ささみ    やっぱり結婚して学校行きながらできると思ったから
       けど今更怖くて下ろしてくれと言われ 今日手術して
       きたの?今実家にきてるの!今更酷すぎるよ、結婚し
       ようと親にまで挨拶にきたのに!今回の事で、男が怖
       い!恋愛も結婚の恋も
返信     落ち着け 俺がいつでも助けてやる心配するな
ささみ    助ける?そんな簡単に出来もしない事いわないでよ!
       そんな優しさが怖い。
返信     今はゆっくり心の傷を癒して下さいね、素直な君が苦
       しんでいると思うと たまらない。

ささみのメールからは、心の乱れと人間不信が強く読み取れた。
私は何度か電話したが、ささみが電話口に出ることはなかった。
ささみの初体験は、当時の彼氏の目の前で3人の同級生に輪姦された。
今回も堕胎手術という酷い仕打ちだ。
こうやって純粋無垢な心を汚されて、彼女は世間を知ってゆかねばなら
ないのだろうか? 私は彼女を守ってやれなかったし、頼ってさえきて
貰えなかった。ショックだ。
私は彼女の素直さが好きだし、そのままでいて欲しかった。
せめて、世間を渡るには「金が大事」という事だけは仕事を通して教え
てやったが、恋愛に口を挟もうとはしなかった。それもすべきだったの
だろうか?
心の重いまま池袋の事務所へ帰った私は、またしても妙な偶然をみる。
アロワナのレットが死んでいた。昨日までは元気だったのに・・・。
ささみの赤ちゃんと同じ命日とは・・・。
「大事にしているもの」ほど壊れやすいのは何故だろう?
経済的な安定基盤を持たない私は、そのものが砂上の楼閣なのだろうか
? この先いったいどんな試練が私を待っているというのだろうか?
昼間の入道雲みたいなものなのか?
私が今まで残してきたモノは、まだ「AV作品」だけだ。

48991(216)             PM11時15分