危険信号

晴天
朝の早くから起きて風呂に入って、何かと緊張気味なユキコの様子。
今日はこの前ユキコが面接に行った飲食店から、バイトの合否があるのだ。
AM11時ユキコの電話が鳴る、
「ハイお世話になります!さようでございます、ハイ! は? あ、はい。」
元気よく対応していたユキコの声が段々小さくなっていった、不合格だったの
だ。これで2軒目である、原因はおおよそ想像できる 初対面の人間に対し、
会話が不得手なユキコのぎこちない雰囲気を察知させてしまうのだろう。
接客業ではそれが致命傷だからだ、慣れればいい子なのに・・・
私は彼女に「面接の時は、相手に聞かれた事だけを丁寧に喋りなさい、但し
丁寧すぎても慇懃無礼になるから、気を付けなさい」と、言っているのだが
彼女には、その加減が難しいのかもしれないが、こればかりは本人でないと
どうしようもない。ただでさえ就職難の時代だ、ユキコのようにちょっと普通
の子より変わっている子にとっては、バイトさえ至難なのだろうか?
飲食店が無理なら、コンビニへ面接に行かせてみよう あの連中に比べれば
ユキコの方が数段上だ。
去年の暮れまで、地元の「庄屋」でしていたバイト代も、すっかり使い果たし
実家へ帰る交通費もないユキコは、私に裸の仕事を紹介してくれと、よく口に
するが 私の中ではまだ危険信号が点滅している、脱ぎのない割のいい仕事も
あるが、そのような仕事を紹介してしまっては この子の為にならない、一度
でも楽な高収入の仕事をしてしまえば、もう真面目な仕事は出来なくなる、そ
れは説明すべくもなく、私の業界に足を踏み入れる事になってしまうからだ。
彼女のように贅沢三昧をして過保護に育ってきたタイプの人間は、「我慢」を
するという事がなかなか出来ない、交通費もないくせにカードローンでグッチ
などのブランド物を買ってしまう彼女に、同情の余地はないかもしれないが、
「買い物中毒症候群」(だと思う)という、やっかいな病気である事に気付い
た私は、彼女のその病気に付け込み、裸の仕事をさせるなんて事は到底できや
しない、この病気は自分で治す事はできない 誰かが財産を管理してやらなけ
れば借金してまで買い物をする、そして本人は買ったその日に後悔するのだ。
離婚した私の前妻がその病気だったのだ、この病気は同情もされないし、本人
だけでなく家族や友人までも不幸にする。 そしてこの病気は、ただ我慢させ
るだけでは悪化し、精神トラブルを併発する、治してやるには それなりの
環境で財産を管理してやり、買い物を出来ない状況をつくってやる事、そして
買い物以上の何かで満足感を与え、心の隙間を埋めてやらないとならない。
今の彼女には、「その何か」が、SEXなのかもしれないし、アウトドアなの
かもしれないが、それが「働く事」になってくれれば理想である、金の為でな
く、働きたい為のものであれば私も喜んで紹介するのだが・・・どちらにして
も長丁場になりそうな気がする。