アイサレンダー

AM7時前から騒々しく目が覚める。朝だというのにユキコがバイトの
件で、母親と大声で電話で喋っているのだ。私が昨日寝付いたのが夜の
3時頃だから、3時間余りしか寝てないので機嫌が悪い。
こうして不機嫌な一日は始まった。
昼過ぎ、弁当屋のレジ打ちのバイトにも落ちたらしい これで3件目だ。
今回は「人の会話の空気を読めない人はいらねえ!」と、厳しく断れた
そうだ、私の前に正座して報告をしながら肩を震わせて泣いているユキ
が可愛そうだった、ユキは泣くとカッパみたいな顔になる、ユキを笑わせ
てやろうと「カッパカッパ黄桜カッパッパ」と、歌いながら私もカッパの
ような顔をしてやったら余計に泣き出してしまった。
ユキの機嫌が直ったのがPM3時頃、「普通のバイトじゃダメなのかしら」
と、つぶやくユキに「就職難だからな・・・」と、言葉を濁す私。
裸の仕事なら直ぐにでもあるが、ユキにはまだ無理だよと、思いながらも
毎回不採用の度に泣き出すユキを見るのもつらい。AV業界や風俗業界に
は、ユキのような子が多い、皆普通の仕事が出来ない子達なのだ。
これだけ仕事をしたがっているユキに、これ以上「裸の仕事をするな」と、
言い続ける自信がない。見かけ以上にハードな仕事が風俗等の接客である、
私は心だけでも真っ直ぐな姿勢でいて欲しかったので、宗教の話をした。
「願い信じれば叶う願いもある」ってね。これがまずかった!!
私の引き合いに出した話が、天理教の話だったものだから、創価学会を妄信
するユキには、カチンときたのだろう「天理教の話をする人とはお話でき
ません!」ときた。そうなると売り言葉に買い言葉、宗論は口論となり激論
へとなってしまった。私はユキを叩いた 叩きながら私はハッとなり思った、
自分まで取り乱しているぞ、これではいつか怪我をさせてしまう、そうな
っては元も子もない、そして言った「分った宗教の話は今後一切するな」と、
私は自分が宗教の話をはじめといてそう言っていた。
ユキコは「命のほうが大事なんで出て行きます」と、荷物をまとめ始める。
PM5時にはダンボール箱6個分の荷物を梱包し、宅急便に出していた。
この状況はこれで3度目である(近所の宅配屋は儲かってしかたない)、
今回ばかりはユキも決心したようで、まるで松山千春の「恋」の如き勢い
なのだ、ユキコに宗教の話をしたのはまずかった。宗教は人の心を操ると
いうが、今回ばかりはユキコも一歩もひかない自分が妄信しきっている唯
一の牙城を侵されんと、私の言う事を一切聞こうとしない。
結局、荷物も送りユキコは出て行った。 さすがに私も宗教には敵わない、
こんな事なら、AVでも風俗でもさせてやれば良かったと思ったが後の祭り
                          PM5時30分
PM6時
掛かって来る筈のないユキコからTEL、母親に相談したら「あんたに振り
廻されるのは嫌だから、家に帰って来ないで」と、言われたとまた泣きなが
ら言うのだ、(泣いたカラスがもう笑った今度は怒った♪)そんな童謡が頭
を過った。明らかに彼女の精神は未成年なのだ!!
私は呆れて、「帰ってきな」と言ってやり事務所に迎えたが、出て行った
さっきの怒り顔が、今度はすっかりカッパ顔になっていた。
そんなユキコが、今度は「送ってしまった荷物の中に、いつもの薬(安定剤)
を入れてしまったの、どうしましょう?」との質問だ、自分を見放した親元
には帰りたくないと、暗に告げたいのだろうが、薬を飲まなくては精神がま
すます安定しない事を知っているので、「明日も来ていいですか」と、しつ
こく哀願するユキコに約束をして帰したのがPM9時頃だった。
そしてついさっき、ユキコからTEL「パパ、私を叩かせてゴメンネ私も一
から出直しますので、明日は宜しくお願いします」と、言っていたが、その
5分後、「もう会えません、さようなら、有難うございました」そして一方
的に電話は切れた。 私は疲れる、それにしても彼女の本当の病名は何なの
だろう?分裂症ではなかろうか?「救われない子」である事は間違いない。
もう私の手元を離れた以上、どうにもしてやれないが、明日以降 彼女から
連絡があったら私は、どう対処すべきなのだろうか?本当に迷う。宗教を信
じているなら、そこの合宿所のような場所で暮らすのが、彼女にとっては幸
せではないだろうか?「幸子」という名前なのだから。
                       9日 AM0時40分