血統書 2

1月31AM9時
朝から扁桃腺が痛み、唾を飲み込むのも辛い 連日日替わり定食のように
私の体のどこかに異変を感じる。体が休息を求めているのだろうが今休む
訳にはいかない、ユキコの教育ももう少しでメドがつく。
1月30日の続き
死を熱望するかの如き言葉を口にし、私に罵詈雑言を浴びせ自暴自棄な行為
をしようとしている、真夜中だというのにあちこちにTELしまくり今の今自分
を相手にしてくれと頼んでいるようだ、ユキコは危険な状態であった。
私の言葉も効力がなく、私がタバコを吸うと「そのタバコの伏流煙はオペラ
を歌う私の喉に悪いのよ!!」と、まくしたてながらユキコはタバコを吸っ
ている有様なのだ。
私はこの状態の彼女を見て、今日のアウトドアが彼女の病状を悪化させた事
を知り、24年間もアウトドアの経験がなかった理由を理解した。
近所迷惑でもあるし、彼女を落ち着かせる方法として まず110番して警
警官に着て貰った、狂人を確保させるのが目的ではない 彼女の錯乱状態を
一時的にストップさせる為だ 酒乱の人間がどんなに酩酊していても赤信号
ではピタッと止まるような身に沁み込んだ判断力で一時的に我に返るという
習性を利用する為だ 警官の制服を見れば静かになるだろうと判断したから
である、勿論「警察の民事不介入の鉄則」は承知の上だ、彼女を確保、隔離
するなら119番である。
警官の姿はさすがに効果があったようだ、警官も呆れて苦笑していたが彼女
の声は徐々に静かになった。AM3時ごろから2時間ほど玄関先から部屋に入
ろうとしない警察官2名を仲介とし話し、警官は帰って行った。
私にしてみれば警官の役目はそれで充分だった、私は警官に帰り際「この状
況を後になって彼女が訴えても拉致監禁にはなりませんよね?」と質問した
、警官は「監禁どころか、あなたは保護してますよ」と、言った。つまり私
は言質をとる必要があったのだ、そしていよいよ仕上げの行動を開始したの
がAM5時ぐらいであった。私はユキコに「警察も呆れて帰って行ったぞ、も
し暴れるようなら病院に入院させたほうがいいですよって言ってたぞ」と、
嘘をついた(ユキは精神病院への強制入院を非常に怖がっているからだ)、
そして、「騒ぐなら病院だ」と言って殆ど無抵抗なユキコを後ろでに手錠を
かけ、足と体もロープで縛り、猿ぐつわもして やっと準備が出来たと思い
おもむろに反抗的なユキコに注射器を見せ、もがく彼女に人身売買を書いた
本を読んで聞かせてやった。そして迫真の演技で冷徹な人間になり言った。
「俺の許容量は限界だ、お前はやり過ぎたんだ かわいそうだがお別れだ
 お前を海外に売る せめての親心として暖かい国にしてやろう
 お前を迎えに来る奴らがもうすぐ来るから待っていろ 
 お前が「死んでやる」なんてさえ言わなければ 他にも方法があった
 俺との別れは意識があるほうがいいか?それとも注射するか?
 お前を売る前にコレクションを収集させて貰う、アフリカの風習で割礼を
 やるんだがクリトリスを切り取るんだ、俺は指でもいいけど?」
と、言い刃物を見せながらその刃物でユキコの頬をピタピタとさせた。
これは「恐怖の植え付け」である、本当の自殺志願者は恐怖すら感じ得ない
という、ユキコが本当にそうなのか確かめたかった、そしてこの究極の状況
でどのような反応を示すか、病気の彼女にどこまで生の執着がありそのため
の手段をどうするか彼女の口から喋らせたかったのだ。この方法は私の必殺
アイテムであり条件が揃わなければ犯罪者とされてしまう、だが彼女が通う
病院やその薬、医師の言葉、彼女の信ずる宗教、または身内や周りの環境で
はなし得ない絶大なる効果があるものなのだ。目の前の恐怖を感じる事によ
り、病気やそれに甘えていた自分に気づきいて貰いたいのだ。
案の定、猿ぐつわを外すとユキコは、「死ぬなんて言ってごめんなさい本当
は病気のフリしてパパに甘えていました、許して下さい 私を売らないで
パパに相手して欲しかっただけなんです 」と、一転泣き出した。
私は予想通りの言葉を聴き、心がグラッとしながらも ここで許してしまっ
は癖になる、徹底した粛清で恐怖を植え込み彼女が病気である事を忘れるほ
どの強烈な状況・恐怖を味わいそれに屈さぬ強い心を芽生えさせたいと思っ
た。そうなのだ精神的な病の場合、その薬は病症を抑えるだけのものであっ
て、根本的に治すものではない、治せるのは自分自身の心でしかないのだ。
私は冷たく感情を入れずに「もう遅いよ、仲間に連絡しちゃった そいつら
来る前に指を切っとかないと、止血するから輪ゴムで縛るよ」と、言い輪ゴ
ムをしようとしたら「ぺディギアできなくなっちゃうよ〜、パパ トイレ行
かせてお願い漏れそう」と、言い出した「そこでしろよ」と言うと「大きい
ほうなの」と言う。 こんな時にクソかよ!と思いながらも昔読んだ本に人
は恐怖を感じると言葉を失い時間の経過とともに生への執着を本能が感じ、
脳は活発に体内を活性化させようとし、その結果 尿意便意をもよおす。と
、書いてあったのを思い出した。
ユキコは本当に恐怖し、本当に本当はもっと楽しい自分で生きていきたいと
思っているのだ。彼女を縛ったままトイレに連れて行き便をさせた。
部屋に戻ると私はまたもや冷徹に言った「親に連絡して金を持ってこさせろ
、金が用意できるなら許してやる、お前を売っ払えば300万になる、俺は
どちらでもいいんだ、さあ電話しな」私は恐喝めいた方法で彼女を脅し、最
終的には いくら彼女が嫌っている実の親でも頼るべきは親しかないのだと
気づかせたかったのだ。  彼女は母親に電話したが早朝という事もあり母
親は電話にでない、仮に出たとしても母親に金など無い事は分っていた、私
の目的は娘の呼びかけに母親がどのような対応をするか見たかっただけだ。
しかし何度電話をかけても母親は電話にでなかった、完全に無視しているの
か?それともマナーモードで寝ているのだろうか? もし仮にこれが本当の
出来事だったらどうするのだろうか。なんという無責任な箱入り母さんなの
だろうか。 輪ゴムで縛られ紫色になった指先を見てユキコへの哀れさは増
す一方であった。
私は再度声色で「いいか分るか?これが本当のお前なんだ 世の中には自分
ではどうしようもない事もある、耐えなくてはならない時も沢山あるんだ、
壁にぶつかる度に病気に甘えどうするんだ?この様な状況になれば病気の事
すら忘れていただろう、お前は病気なんかじゃないんだ、そう思わせている
のはお前の今までの甘やされた環境だろ、医者が言う「環境を変えれば治る
」とは、そういう意味だぞ、薬なんかで治るものか、宗教をしてるというけ
れどお前の尊敬する池田先生はお前を今助けられるか?誰も助けてはくれな
いのがこの世の中なんだ、迷惑かければ嫌われるだけだ、違うか?自分も力
になれる人間だと相手が受け入れてこそ相手も力を貸し助けてもくれるんだ
、お前は甘えてないで自分自身を助けるよう努力すべき立場なんだ、いい年
していつまでも気づかぬフリはよせ、もっと酷い病気の者はいくらでもいる
んだ、俺は見てきてるんだ、哀れな主人公気取りでどうする?そんなものは
忌み嫌われるだけだ、お前は今日から生まれ変わるよう努力しろ」
そう言いながら私は手錠やロープを解いてやった。ユキコは「パパを信じて
ました私が馬鹿でした」と、言って泣き崩れた。だが緊張の解けた拍子に今
度は失禁でもしないかと心配になり、「トイレは?」と聞いたりした。
彼女はこれからも努力次第では良くなっていくだろう、今回私が彼女に対し
て行った事は「恐怖」に裏打ちされたものでしかない、だから一時的なもの
に過ぎない、だが私に対し2度と病気のフリなど見え透いた悪ふざけはしな
いと思う、これは彼女のいままでの24年間で誰もがなし得なかった事であ
ろう。 問題は母親のほうである、また甘やかすのでは?
1月31日
昨日、実家へ帰り直ぐに戻って来るはずのユキコの母親から連絡があり
「娘を釣りに連れて行って頂き有難うございました、娘も大変喜んでいたの
ですが、食事もしてないようで・・・病院に入院したいと言っているのです
が私には訳が分らなくて・・本人の意思を尊重しようと思うのですが・・
荷物を送り返して頂けませんか」
どうやらユキコは、あれだけ私が言って聞かせたのに またもや母親に甘え
ているようだ、しかもあれほど嫌がっていた入院を希望してるだと?
私は直感した、これは演技だ、そしてそれを真に受けた母親が思いあまり電
話してきているんだと思い、「お母さん、あなたのその考え方は優しさなん
かではないですよ、娘さんが本気で入院していと思ってると あなたは思っ
ているんですか?入院なんかさせたら娘さんの将来なんてなくなりますよ、
娘さんに言われたからって「はいそうですか」なんて それに荷物だってそ
ちらが取りに来るのが常識でしょ?来ないなら捨てさせてもらいますよ、
いいですか、娘さんはあなたに叱ってもらいたいんですよ、言う事をきいて
ばかりいないで勇気を出してみて下さい 親らしい事をトライしてみて下さ
いよ、大変かもしれないけど頑張ってください、あなたの子供ですよ」
そう言うと、私は何か言おうとしている母親を無視して一方的に電話を切っ
た。何度も電話があったが私は無視した。あとは本人の意思である、私のも
とに戻って来るも来ないもユキコ次第だ。
AM11時30分
「今、池袋に向っています ご迷惑掛けてすいません」
ユキコの、はにかんだ でも明るい声だった。      PM2時15分