血統書 1

28(土)イタリアンレストランにて二人で食事。
ワインの注ぎ方、テイスティング、料理に関する知識と作法その全てが
過去に上流家庭の箱入り娘として贅沢に暮らしてきたであろうと想像さ
せるには充分であり、無作法な私が逆に教えてもらっている。この、良好な
健康状態の場面だけをみると、ユキコのトークも振る舞いも他者に比類しな
い、彼女はある意味 天才肌なのだ。
その夜、明日に彼女の人生初のアウトドアを控え興奮して眠れぬ彼女だった。
偏った環境に身をおき 診断の結果も「あなたの病気は環境を変えないと難
しいですよ」と、医師にも告げられているそうだ。普通の人からすれば釣り
に行くくらいと思うだろうが、彼女にしてみれば初のイベントであり、病気
を治せる一手段と捉え期待と興奮で眠れないのだ。彼女曰く、父親を知らず
女家庭で育った私は外の世界に触れる事もさせてもらえず24年間の牢獄生
生でした、地元では「わがまま姫」として有名でした。
私はよい事をしているという陶酔感から何故24年間もアウトドアの経験が
ないのか、いやさせて貰えなかったのか気が付かなかった 今回の失敗は私
の慢心からでたミスでもある。
29(日)F氏と私とユキ 3人は江ノ島の船着場で旭日を見ながら吉野家
で早い朝食を摂っていた、その頃から彼女の様子は少し変だった、感極まっ
て歌いだしたり突然意味不明な会話をしたり。船上では疲れたのかユキコは
2時間もしないで竿を握ったまま寝てしまった、まるで子供だ。
池袋に帰宅した私達は数少ない今日の獲物を、どう料理するか話し合った。
その結果、彼女の母親に「初めて釣った魚」を報告も兼ねて母親に食べても
らいたいという事になり母親に電話していた、その時彼女の母親が「そうな
の楽しみね」の一言でも言っていれば良かったのだが、電話を切った彼女は
怒りをあらわにし「あの女最低ね!合唱団の会合があるから私にも会えない
んですって」と、言った。《この母親にして、この子あり》実は母親こそ、
先代からの財産をホストに入れあげた血統書つきの箱入りなのである、ユキ
は母親に小さい頃捨てられ、祖母と暮らすが母親はホストの男に騙され全
財産を失い、祖母の家に転がり込み再びユキコと3人で暮らすが女3人の生
活、しかも血統書つきの世間知らずな元箱入り母さんの教育はユキコに良い
影響を与えなかったのは、今のユキコを見れば納得する。ちなみにユキコの
通っている心療内科の医師は「君よりむしろお母さんを診療したい」と、言
っているそうだ。家族会議では、議題はいつも母親を如何に病院に連れて行
くか、それを祖母とユキコの二人は画策しているらしい、つまり母親はユキ
にとって病気の原因なのだ「不安神経症摂食障害」これがユキコの病名だ。
初対面の人間に過度に緊張し環境が変わっただけで拒食、過食をする、そし
て感情の乱れをコントロールできなくなり別人のような人格障害のような症
状をみせる。前者についてはそうなのだろうが、後者については本人の甘え
を是正し「逆らえないモノ」を提示してやればいい、それが例え「恐怖」で
あっても本人の為である。この日私はユキコに先日以上の恐怖を与えなくて
はならなくなってしまった。使用した道具は手錠とロープ、人身売買の本、
東急ハンズで買った注射器。 
続きは後日(おかげで寝てないからフラフラ)     PM7時35分