雪解け

21(土)の続き
昼を過ぎた頃、ユキコからTEL、遊びに来たいという。ユキコを拒む理由
など無いが、病気の彼女が本当に一人で来れるのか心配だった。「ちゃん
と薬を持って来るんだよ、何かあったらすぐ連絡してきなさい」と、言い
PM5時に私の事務所へと約束をしたが今日は私も病人同然、ユキコを待つ
間仮眠を摂る事にした。
PM5時30分 まだユキコは来ない
PM6時    連絡してみるが留守TEL やっぱり無理だったか
PM6時20分 ユキコからTEL 財布をなくし駅員ともめてるそうだ
PM7時    池袋に着いたが迷子になっているそうだ
PM8時    再三連絡をするが留守TEL
この様に、彼女は池袋へ来るだけで大変な努力をしなければならない、最後
に連絡を取れたとき「お腹が痛いので少し休んでから行きます、迷子になっ
て道を聞いた親切そうな人に・・・パパにプレゼントを買ってから・・・・
・・・今いる場所はパパに言えないんだけど・・・・るからね・・・」
私の事務所は電波が悪い。途切れ途切れに聞こえるユキコの声に、「プレゼ
ントなんていいから、迎えに行こ・・・」すぐに電話は切れてしまった。
財布をなくしてしまったのに、どうして物が買えるのか?道を聞いた親切そ
うな人に金でもせがむつもりなのか?その方法は? 私は商売柄、悪い想像
をしてしまう、まったくなんて日なんだとハラハラしながら待つこと40分
ユキコから「デパートのタバコ売り場にいるけど道が分らない」と、言って
きたので私は「そこで動かず待ってな」と、迎えに行ったがユキコはいない
携帯もつながらない、これはどうしたことなんだ?!と、途方にくれて近辺
を探したところ、化粧品売り場のカウンターの椅子に座り爪にマニキュアを
店員にしてもらっているユキコを発見した、歩み寄り「こんなに心配させと
いてっ!!」と、言いかけグッと我慢。 私の姿を見つけた彼女が嬉しそう
に近づき「ごめんね〜パパのプレゼント選ぶのに時間がかかちゃったの」と
私に小さな手提げ袋を差し出した ジパンシーの香水だった。
私は帰り道、約束の時間に人を待たせてまでプレゼントを買うのも、携帯が
繋がらないと心配する事も、彼女が解る様にゆっくり言って聞かせたところ
彼女は「女ってそんなモンよ」と、平然と答えるので閉口してしまった。
黙ってしまった私の腕に抱きつきながら「遅くなってごめんね」と、ポケッ
トからタバコを取り出して私に差し出した、15日の夜私に買ってくる筈だ
ったマルボロメンソールライトだった。
彼女が財布をなくしたのも迷子になったのも腹痛も全部嘘だった、私に心配
させ迎えに来るようにさせ、そこでプレゼントを渡すという彼女の演出だっ
たのだ。 ちょっと疲れるが、女心とはこういうものか?特に彼女のような
病気の者は、人を引き付ける紙一重の業を非常にうまく操るものだ。
翌22日、実家の雪かきに出かける。
両親がエジプトへ旅行に出かけているので、お庭係の私は留守を預かってい
るのだ。ユキコが一緒なので手伝わせ早々に池袋へ帰る。
上州屋でフリースを買ってやり、今度は一緒に釣りに行こうと約束をする。
彼女は今日初めてSEXでイッタそうである、女の幸せの第一歩を歩み始めた
ようだ。
帰り道、解け残った雪道を歩きながら彼女は言う「明日ぐらいには解けると
いいね、危ないからね。」 
「そうだな、お前の病気もな」私は彼女を見ながら心の中で呟いた。
                         PM10時30分