未練な鬼畜男

またいつもの生活パターンに戻ってしまった。
今日は昼の1時から撮影があり、私はいつものように仕事をした。
モデルは20代前半の沖縄出身者で、適度な肉付きとかわいい顔で
、人前で初めて脱ぐという恥じらいもあり そのぎこちなさも初々
しく感じた。ユキコとばかり寝ていた私は今日が今年初の撮影であ
り、やはり違う女を抱くのは悪いものではないと思いながらも、ユキ
コが私の事を「ドン・ジョバニーだよパパは」と、言っていたのを思
い出だしていた、ドン・ジョバニーとは女好きな男の事だそうである。
自分ではそう思ってないがそうなのかもしれない、しかし一度抱いた
女を何度も抱こうと思わないのは私だけではないだろう。
着の身着のままでユキコが消息を断ってから、私は眠れない ユキコ
がいた時は睡眠薬さえ必要でなかったのに、一階の事務所に住む私は
住人が玄関を出入りする物音に ユキコが帰ってきたのか?と、聞き
耳をたてているからだ。未練な男と笑われるかもしれないが、私はそ
れほどドライではない。聞き耳を無意識のうちにたてていると、他の
音(上の住人が水を流す音や、地下のポンプ室の音、部屋の水槽の水
音)までもが異常にうるさく感じられて寝られなくなるのだ。
1月16日
今日になってやっとユキコが自宅に戻っている事を知って安心したが
ユキコからも母親からもなんの連絡も無い、私が知ったのはユキコが
部屋へ置いていった電話の着信履歴を片っ端から連絡したら、その中
の一人が教えてくれたからだ。まったく無責任極まりない親子だ、私
には電話口で泣きながら「娘を宜しくお願いします」なんて言ってた
くせに、こんな事ならとっとと知り合いの風俗かAVにでも預けて金に
してしまえばよかったと、私は自分の心に邪心が湧き出るのを感じた。
何はともあれ、ユキコが無事でよかった。
そういえばユキコが出て行って一日もしないうちに新しい仕事の話が
3件も舞い込んできた、今年もまた忙しい年になりそうだ年々冷え込
むAV業界で仕事があるだけで有難い。今年に入ってからスカウトマン
も、ことごとく断っていた ユキコが私の仕事姿を見たくないと言っ
ていたからだ。今は遠慮なく仕事ができる、女衒な人間である私にと
っては、高尚な事を考えているより、AVにまみれていた方がお似合い
なのかもしれない。やっぱり私は鬼畜なのかな〜。AM0時55分
明けて17日AM10時
ユキコの母親から連絡あり「娘の荷物を着払いで送ってくださいませ
んか、娘が家に帰って来た理由は知りませんが、娘だから受け入れる
しかないんです、ご迷惑ばかりかけて申し訳ありませんフラッシュバ
ックではないかと思います、以前にもありましたので。」との内容で
あった。 私からすれば何の迷惑でもなかった、むしろ女の温もりを
充分に毎日堪能したし、ユキコの優しさも充分受け取った、私が咳き
込んだら背中をさすってくれたり、洗濯掃除や、出かけるときはクツ
下まで履かせてくれた、私の門下生の中では最高の生徒であった。
私は彼女がいなくなって気付いたが、彼女は門下生以上の存在となっ
ていたのだ病気の事もあるので、彼女の熱望していた結婚や、認知し
なくてもいいから子供を作ってくれという要望には応えられなかった
が、二人で一緒に暮らしたかった。今となっては仕方ないが、「ラク
ーアにいこうよ、アウトドアを一度もしたことないの、今度私も釣り
に連れて行って」と、彼女が言っていた言葉を実行してやれなかった
ことが悔やまれる、二人で食べる筈だった冷蔵庫の中のオデンも、私
一人で食べる気にならないので捨てよう。
彼女は「桜梅相」という難しい言葉を知っていた、「梅は梅のように
桜は桜のように、私は私らしく生きるんだ」と、オペラ歌手を目
指している彼女だが、実際は病人らしく不幸な人生を送るのだろうか、
哀れだ。ユキコが教えてくれた歌の一つで「ラシャ キヤビアンガ
ラドゥー ラソルテ」というのがある、意味は私を泣かせてください
という意味だそうだが、今の彼女にはその歌がふさわしい。病気でさ
えなかったら素晴らしい人生があっただろう。迷惑を掛けたくないか
ら私は死ぬんだと、私と会った今年の初め頃彼女は口にしていたが、
自殺願望者の気持ちが少し分る様な気がする。ユキコを救ってやれな
かった私の力量不足を痛切に感じる、やはり医者の処方する薬を飲ま
せていれば良かったのだろう。
法的には、精神に病を抱える者、認定者或いはそれに類する者を使用
した場合、使用者を刑に処す とある。つまりそのような者と私のよ
うな者が関わっていると、未成年者に犯罪行為をした時と同等の罰を
私は科せられるのが現行の法である、厳密に言えばもう私は手遅れで
あるが、今回は本人の意思と母親の承諾があったので刑事になる事は
ないであろうが、もしユキコが訴えた場合私に打つ手は無い。
ユキコの荷物を送りお別れをする、荷物の中に手紙を入れておこう
「ユキコ、短かったが楽しい毎日でした 迷惑だなんて思ってないよ
 急にいなくなったので心配したけど家に帰っていたので安心したよ
 お母さんから、荷物を送ってくれと言われたので送ります 体が良
 くなったらお医者さんとお母さんと相談して、紹介した小岩の歌の
 先生を訪ねてみてはどうですか?待ってますよ、薬を飲みながらで
 も好きなオペラの道は出来ると思います、ユキコの好きな道でやっ
 てみては如何でしょうか、コンサート出来るようになれたらいいね。
 ユキコなら出来るよ、楽しみにしているよ。 パパより」
さらばユキコ、後はもうお前の努力だけだ、私には仕事もある。こん
な私だが次の仕事や次の女に対して構えなくてはならないのだ、いつ
までも感傷にふけっていられないのだ。次はどんな運命が私を待って
いるのだろう? さあ来い!次の運命よ、難儀なお前らこそ私の人生
を、より一層味わい深くしてくれるってものよ! AP11時50分