矢吹2

矢吹薫 2

私が高校1年の時だった。
クラスの同級生に小川薫って名前の奴がいたんだよ。
あれは偶然だったなー。
私は自分の名前にコンプレックスを抱いていてね、だってそうじゃないか、薫って何か女っぽい。
今だったら薫という名は、高貴な雅な言葉だって分かるさ、でも当時の私には屈辱だったんだな。女もそうだろ?真琴、アキラ、なんて名前を付けられた事に誇りを感じていた女は当時は私の周りにはいなかったよ。

そんなことで俺たちに付いたあだ名は小川が「ボス」私が「ナンバー2」だった。
出席番号順に名前を呼ばれるのがその所以だよ。

小川は社会科の教師が嫌いでね、その理由ってのが、何故か小川だけを「小川薫」とフルネームで呼ぶんだよ。
出席をとる時には勿論、授業中の返答の時もことごとく小川はフルネームで呼ばれていた。

社会科の教師はちょっとドスの効いたような奴で、授業内容以外の面白い話もしてくれて割と生徒には人気があった。
それなのに小川にだけは「小川薫」と何故フルネームなのか、イジメでもなかろうに?小川本人は嫌がっているのになと、皆不思議に思っていたな。

その答えは私が社会に出て仕事をするようになってから分かった。
私が20代の頃、ある企業の会長の秘書兼付け人みたいな仕事をしていた事があった。今で言うボディーガードみたいなものだね。
その会長は裏社会では名前の知れた人でさ、田中角栄って知ってるかな?有名な政治家なんだけど、田中さんは新潟なのね、その会長はヘリで新潟に通って将棋を指しに行ってたり、後には都知事選に立候補してたりしてたなー。

私はその会長の使いっぱだったのさ。
ある時、不渡り手形を1枚渡されて「取り立てしてこい!」って会長に命令されたんだよ。

その不渡り手形の名義人が「小川薫」だったのよ!
同級生の小川とは同性同名だったけどこんな妙な偶然って面白くないかい?
そのもう1人の小川薫ってのが
、その方面では結構な大物でね。
ネットで調べてみればいい。
あの総会屋のボス本人だよ。

取り立ては無事に終わった。
慶応病院だったかな、そこの個室に入院してて「糖尿で眼が悪くなって・・」みたいな事を小川さんは言ってたな。
私は病院にまで取り立てに行くとかちょっと嫌だったし、同級生と名前が同じ、また「薫』にだけ言えば共通の愛着があったから複雑な気持ちだったのを覚えている。

さて、時系列を現代に戻そうか。
何でこんな昔話を書いたかって?
社会科の教師が小川をフルネームで呼んでいた訳が分かったろうよ?
でもそんな事が目的じゃないぜ、「薫』っていう私の名前と存在を覚えてもらいたかったからだよ。

これからは、ここに私矢吹も直接書かせてもらう。
この場所は沖本だけのモノじゃない、我々5人の共同スペースだって事を改めて宣言する。