矢吹1

矢吹薫ー1

五日市街道を三鷹方面から田無の方へ進む。
武蔵境へ入り桜堤の青い歩道橋の信号を右折する。
右折してすぐの1本目の路地を左に入る。
その道は車がやっとすれ違えるくらいの細い道だ。
進行方向右手は小金井公園の広大な敷地である。
小金井公園は都内最大の公園で敷地が長方形の形をしており、長い方の一辺は中央線の一駅分の距離があるほどだ。
都内有数の森林浴スポットでもあり、休日ともなれば遠方から来る家族連れで賑わう。

細い道を車で5分ほど走ると、白い鉄筋コンクリート作りの学校の校舎のような建物が見えてくる。
以前は大手メーカーの独身寮として使われていたその建物、小金井公園に隣接する閑静な住宅地の一角にある。
敷地面積は広く小さな小学校ほどはある、白い建物の周りは整然とした樹木の垣根で囲まれ、駐車スペースだけでも悠に車20台は停められるだろう。
建物は幾つもの小部屋に仕切られており、外観から見ると二階部分だけでも30部屋以上ある、区切られたベランダ部分と空調室外機の数でおおよそを察する。
白い鉄筋の建物は二棟あり、その中間は中庭へと続き、建物と建物の中間には広い食堂があり正面玄関のロビーには、ゆったりとしたソファーが置かれていた。
建物入り口には「緑皐園」と、毛筆の筆記体で重々しく刻まれた石碑のような大石が設置されていた。
その大石は小高い盛り土の上にあり、手入れの行き届いた太い松と、何十年も生きたであろうこれまた太い垂れ梅の大樹が夫婦のように立ち並び、足元には稚児笹がビッシリと生えていた。
なるほど、松竹梅という訳か。
こんな植え込みに何の意味があるというのだ?
ここの植え込みをここの利用者が目にすることは殆どないのに。私にはあの大石が墓石のように見える。

ここ近年大きな建物が新しく建つと思えば、それは葬儀のセレモニー会場か老人ホーム。
高齢化社会に突入した現代の日本にそれは競うように出現している。
緑皐園もそんな老人ホームの一つである。