一の森
一の森とは、古より地元民しか立ち入りを禁じられてきた森。
不可解なことがよくあるとされている森である。
今では宅地開発が進み、虫食いのようになって住宅地の中に
ポツンと公園や緑地のようになって面影を留めている。
住居表示も〜町〜丁目などとなってはいるが、元々はその地域
全体が一の森である。
私が車で訪ねた一の森も、ちょうどそんな森であり、住宅街の
中を数十メートル伸びる神社の参道の一部が、元一の森として
そこだけ区分されていた。
森というよりは、古民家の暴風林といった感じであった。
車に同乗していたのは私の両親だった。
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車を参道に停めて、参道わきのゴミ集積所で何かを探してた。
透明な衣装ケースのような箱が積みかさられており、その箱は
虫かごのようなものでもあった。
中を覗いてみるとセミがいた、こんな季節だというのにその
セミは生きて動いていた。私は箱の中に手を入れてセミを捕まえ
てみた、セミは羽ばたくが飛ぶまでの力はなく、鳴かなかった。
そのセミは飛べないアブラゼミのメスであった。
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もう一つの箱を父が指差し「こっちにもあるよ」と言ったので、
見てみると。
その中には数十匹のクワガタとカブトムシがウジャウジャといた。
どれも生きていて不思議だった。
クワガタは越冬するが、カブトムシやセミがこんな時期に生きてい
るなんて、これを飼っていた人はこの近所の住民だろう、そして
よっぽどのマニアなのだろう、それにしてもこんな形でゴミとして
処分するとは何かあったのだろうか?
噂に違わず不思議な霊験あらたかな場所だ、と思いながらクワガタ
を一匹つまもうとしたら、それはクワガタではなくゴキブリだった。
その箱の中をよく見てみると、カブトムシに混ざって沢山いると思っ
たクワガタは全てゴキブリだった。
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私たちは車に戻り、参道を先へ進んだ。
参道の突き当たりは小さな祠のあるちょっとした広場だった。
その昔、その場所は一の森の中心だったのだろう、そして一の森の
神を祭る社殿のような建物があったのだろう。
今はそんな建物もなく、ちいさな祠があるだけで広場の周りには大き
なイチョウの木が広場をぐるりと囲むように生えており、広場はイチョ
ウの落ち葉で黄色一色に埋め尽くされていた。
そして銀杏も沢山落ちていた。
私たちは車を降り、銀杏を拾った。
コンビニのビニール袋2つ分くらいをすぐに拾い集めたのだが、拾った
銀杏の中に異様に大きな銀杏があった。
大きさは鶏の玉子ぐらいの大きさであり、そこでも一の森の神秘に驚か
された。
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家に戻ると食事の用意の最中であった。
年の暮れの慌しさと、正月のまったりとした雰囲気と、どこかのホテル
の立食会場、それに夕飯のどこからともなく漂う焼き魚の香りのよう
な、そんな全てをミックスしたような和やかな印象の場面だった。
家族の他に知人や見知らぬ人までいたように思う。
母が珍しく新しいバリエーションの肉料理に挑戦していた。
厚切りハムをハムかつ風にして、それをカツ丼のように玉子でとじる
というもので、美味しそうなにおいだったが、それを焦がしてしまう。
ところが、その焦げた部分が餃子の羽のカリカリとした触感のようで、
味は玉子煎餅のような、ウェハスのような風味のいい感じだった。
焦げたのが怪我の功名だな、などと思ってた。
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その後の記憶はない。
時々みる鮮明な記憶のある夢の中で、珍しくほのぼの系だった。
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私が最近トライしている心がけ。
それは深く考え過ぎないようにしようという事。
私は今まで深海に潜ろうとしていたように思う。
自分の背の立たぬ深みどころか、息もできない深海に潜ろうともが
いていたように思う。
方向性が違う事に気付けなかったから。
私はもっと浅い処へいかねばならなかった。
その淵が見えてしまうような深い場所へは行ってはならないのだろう。
自分がそういうタイプでないと気付けないでいたのだろう。
世間に紹介されている人生の達人って、皆楽しそうだから。
大変そうだけど楽しそう。
私は苦しみの向こうの快楽や光のようなものに美学を感じてしまって
いたように思う。
きっとそんなものはないのだろう、苦しみの向こうには更なる辛酸。
深い淵の底のその奥も、きっと限りない闇しかないのだろう。
そんなものに向かっちゃダメ。
何をするにしても、「楽しいな」と感じる場所、自分なりに一生懸命
に遊べる場所。
そういう場所を目指すよう心掛けている。
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私が今やっている仕事は、女関係の紹介屋。
良く言えばコーディネ−ター、悪く言えばブローカー。
どちらにしても世間一般じゃ、「まとも」とは程遠い。
一年前に立てた「誓い」や「志」とも、かけ離れている。
だけど、今の私にはその浅瀬こそ居場所なのだ。
その場所を応急非難場所と思いたいが、また深い場所へ行こうとする
自分を引き戻したくも思っている。
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232824 H24 1月15日 PM 15時35分