幻聴
真夜中の3時ごろ、どこからともなく歌が聞こえてくる。
その歌はジングルベルや、とおりゃんせ、といった懐かしい唱歌、
または近所を売り歩く灯油屋の音楽の時もある。
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こんな時間にありえないと、耳を澄ましてみる。
窓を開けて音源の方向を探ってみたりもする。
でもどうやら、その音楽は外部からのものではなさそうだ。
耳で聞こえるってよりは、むしろ頭の中で感じるってかんじ。
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いわゆる幻聴ってやつなのかもしれない。
まだ自覚はないが、ひょっとしたら例の「ヤツ」かもしれない。
ヤツは、こんな寒い時期になると突然に私の中に入り込み、
そして私から全てを奪ってゆく。
行動力も、思考能力も、今の生活も何もかも。
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もう何年ヤツと付き合ってきたのだろう。
毎年疲れるぜ。
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最近は睡眠剤も安定剤ともおさらばして、
やっと回復しつつあると思っていたが、そうでもなかったのか?
こんな状態になると、つい薬の袋に手が伸びそうになるが、
そうするともう自力では元に戻れないような気がする。
薬は一時の安心感と強い副作用がある、それを断ち切るのは並大抵ではない。
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それに暖かい季節になればヤツはいつのまにかいなくなる。
それと同時に突拍子もない発想や不思議な能力を授けてくれるときもある。
だが、それらの不思議な能力のほとんどは幻想であり、うかつにその能力を
自在に操れるなどとうかれていると、大失敗をするもんだ。
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今はただひっそりと静かにしていよう。
ただ、まちがっても人にこんな姿を見せてはいけない。
こんな私を見た相手は、同情するどころか同情するフリをして見捨てる。
だから普段は無理をしてでも普通に振舞うようにする。
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「それがいけないんです」と、医者は言うが。
あんたら俺を治せたのか?
何人がかりで俺を診ようと治せやしなかったじゃないか。
だから解っている。
これは自分の問題、自分のやり方でやるしかないんだ。
ヤツと上手く付き合って、今回もきっと無事に渡りきってみせてやろう。
そして、あの不思議な能力や突飛な発想を貰ってやる。
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235526 H24 2月5日 PM19時30分