ビン沼 2

さらに道なりに10分ほど進んでゆくと、道の幅は広くなり2車線の
道路となる。
交通量が増え始め、信号も幾つか超えしばらく道なりに自転車を走ら
せると、やがて右手に鶴瀬病院という大きめの病院があった。当時の
その辺では珍しく大きな病院で救急車も時々出入りしていた。
(救急病院だったのかもしれない)

上級の誰かが
「見た」と、
言っていたのを記憶している。
急患が運び込まれる現場に遭遇したらしく、急患を乗せていたタンカの
枕の部分が血でビッショリ濡れていたのを「見た」そうだ。
それが真実かどうかなど、誰も確かめない。
・・・そういう場所なんだ、怖いな・・・・少年たちは一刻も早くその
病院のある場所から離れたいと、無言で自転車のスピードを速めるのだ
った。

やがて自分たちは高台にいた事に気付く。
道は手前が長い下り坂になっており、眼下に一面の田園風景が広がる。
視界を遮るものはなく、目的地近くまで坂は続く。

その坂をペダルもこがずに、サーと自転車は進む。
緑一色だった景色が、やがてそれは水田地帯であることが分かってくる。
ジェットコースターなどまだ乗れない年齢の子供たちである。
体感できる爽快感などは、きっとそういう坂道を下るときだけだったよう
な気がする。
坂は一直線で200メートル以上はあっただろう、その坂の終わったあ
たりを右に曲がり、自転車をおりた。
自転車をおりた場所は、何故か田んぼの真ん中にあるような建物である。

建物は2方向を堀のような水路に囲まれた建築物である。
幼い子供たちには、その建物がどういう事をする場所か知らず興味もない。
その建物の名称は「フジミシヤクショ」とだけ知っていた。
子供たちの興味は、そこにある堀のような水路であった。

その水路は幅が2メートル、長さは一辺が50メートルほど、水深は深い
ところで数メートルあったのだろう、深い方では釣竿を立てている大人も
数人いた。
浅い方はヒザぐらいまでしかなく、少しヘドロのような匂いのする砂のよう
な土のような黒灰色のドロであった。

子供たちは、次々と堀の中へ下りていった。
手に手にザルを持っており、そのザルで堀のドロをすくい上げる。
ドブさらいの要領で堀のドロを乾いた道へ上げるのだ。

すると、その泥の中からピチピチと大小のドジョウが跳ねだしたくる。
そのドジョウを捕るのが子供たちの目的の一つだったのだ。
上級の子がやってるのを見て、見よう見真似で私たちもやり始めた。
初めのうちはドジョウ捕りをしていた。
各人がもってきた容器に捕獲したドジョウを入れては眺め満足していた。
中にはドジョウではなく、ウナギの稚魚を捕らえた子供もいた。

そのうち上級の子供が
「ザリガニ釣りをやろう」と、言いだした。
その言葉に子供たちは期待に胸踊らせていた。

160493 H22 3月30 PM4時50分