実話1

昨日のブログで書いたぐらいじゃ、
ちょっと私の本当の悩みどころ、悔しさなんて表現できてない。
ただの愚痴っぽい思い出話でしかなく、そこにある問題の核心部分を
充分に書ききってはないだろうと思い、思い出しついでにもう一件実
話を書いてみる。

あれは私が介護業界で2軒目の勤務先での話。
このブログでも以前に書いたことのある、ある男の子との話。
さわりとして参照を先に読んでもらえたらいいと思います。

http://d.hatena.ne.jp/takeshiokimoto1/20110131(参照)

この彼、この当時のブログでは、まるで無口でピュアな心の持ち主と
紹介しているが、実はどうしてどうして慣れてくるとそうでもなかったのさ。


彼はちょっとズルイところもあって、警戒している相手や、自分に不利な
物事に対しては無口になったり、言葉を理解してないフリをするという、
小さい子供によくあるような、少しずる賢い判断能力のある子だった。

人間なんてそんなもんだから、それでこそ自然だからいいんだけど、
当事者以外の「世間の目」ってのが癖モンでね。
書きたいのはとんでもない誤解や、魔女狩りも真っ青な風評をたてる輩も
いるって話さ。

彼は問題児でもあったんだよ、高校3年生ともなれば力も強いし、急に走り
だしたり勝手な行動をしたり、また逃走癖もあった。
だから前に彼が世話になっていた施設でも、行方不明となって警察沙汰になり、
その施設から、厄介払いされているんだよ。
この事について彼の親は
「あの施設では、うちの子アザをよくつくってくる、ダメな施設だった」
なんて言っていたが、実はその親にも問題があるんだよ。
ダメな施設と言われた方も、「あの家はモンスターペアレンツだから」
なんて呆れていたから、私が知る意外にも問題があったのだろう。
(私はその両方の施設で働いていた)

私の自宅と彼の家が近いという理由で、専属ではなかったが、彼の世話は私が
殆ど担当するようになった。
(そんな問題児を、何の予備知識ももたない新人の私に任せるというのも常識的
には考えられないだろうが、この業界ではそれが当たり前である。
業務の引継ぎ作業や、その確認といった習慣が疎かにされている業界なのである)


彼の世話の内容は、彼が通学するための専用バスがあるのだが、彼の自宅
からその停留所までの送り迎え。
それと彼が自宅で留守番をしている間の見守り、これは家族が帰ってくるまで
の3時間程度、彼の自宅にお邪魔して行う仕事である。

例によって、彼とはすぐに私は仲良しになった。
他の職員から
「あの子の担当ですか、大変ですねぇ・・」
なんて言われたりしたが、私には何の苦もなかった。
当たり前かもしれないが、この仕事の大変なのはお世話する相手に好かれるまで、
それさえクリアーしてしまえば、あとはこんな簡単な仕事もないくらいなのだ。
問題はそのあと、こちらが仕事で仲良くしている姿を、周囲がどう判断するかって
事、それが一番大きなこの業界の問題点。
本来なら微笑ましい情景である筈の、本人だって喜んでいるその情景を、必ずしも
周囲はそう見ない点、浅ましい、嫉妬深い、ひねくれた者がこの業界には多い。
それは職員だけでなく、家族までもがそうなのである。

いつものように彼を停留所まで送りに行っていた。
その日の彼の顔は、うっ血し赤い斑点が顔中に浮かび上がっていた。
彼は泣くと、そういう症状が顔に表れるのである。
私は何かあったなと思い、彼に尋ねてみた。

「どうしたタカちゃん?、悲しい事でもあったんか?」
彼は歩みを止め、立ち止まり、ますます涙を滲ませながら私を見て言った。
「俺は人間じゃないって・・・アンタ人間じゃないって、言われた・・・」
「人間じゃないって・・・人間じゃないって・・・」
何度もそう言って彼は大声で泣き出した。

「誰にそんな事言われたの?俺がやっつけてやる」
私は、おおかた学校の級友か誰かと、口喧嘩でもしたかと思い、そう返したが、
彼の答えは違っていた。
「ママ・・・」
であった。

それが真実かどうかは確かめる術もないが・・・たぶん嘘ではなかった筈だ。
私は彼が可愛そうになり、彼に言った。
「そうなんだー、でも俺はタカちゃんが大好きだよ、友達じゃないか」と。
すると彼は、更に大きな声で「ウオーン」と、まるで漫画のような泣き声で
泣き出しながら私に抱きついてきた。
私もしっかりと、彼を抱きしめ、頭を撫でて慰めてやった。

それからというもの、彼は一層私と仲良しになり、本当の彼を私にみせるように
なってくれた。
彼の兄の部屋から持ち出した、エロDVDを自慢そうにみせびらかしたり、
秘密の小箱の中身を私に見せてくれたり。
(秘密の小箱の中身は、エロ雑誌の切り抜きであった。)
アルバムを引っ張り出したり、お菓子をくれたりした。
彼の家族の前で私に甘えたりもした、正座している私の膝にまたがり、私の頬に
キスをするのである。
彼の母親(後に書くが問題のある別の障害者施設Gハウスの職員)は、それを
見て慌てたように
「タカちゃん、結婚できないのよ!ダメダメダメ!!」
と、私に甘える彼を制してした。

私は特に抵抗もしていなかった。
子供が甘えているだけ、たかが甘え、この子にしてみれば愛情表現。
そこに問題などあるわけもない、むしろそれを拒絶するような仕草こそ不自然。
「この子は、このヘルパー(私)になついているんだな」
と、そう介錯してくれればすむ話、どこにでもある親愛の情ではないか。

(ところが、この業界ではそうではないのである。)

彼の母親の話によれば、彼がそんな行動をするのは見たことがないそうだ。
彼の家族にさえ、一度も抱きついた事がないらしい。
私は思う
「そりゃね、障害児だからって馬鹿にしてんじゃないよ。
あの子等だって、人並みにちゃんと感情があるんだよ、普段、いままでも、
どんな接し方してたんだよ、どんな言葉を彼に吐いたんだ?
愛情不足なんだよ、それが分からんのか!!
それが出来てないから他人の俺に甘えるんじゃないか!!」

ある日も、停留場で彼とバスを待っているとき、彼が泣いていたので同じように
彼を抱きしめてやっていたら、それを見ていた他の障害児の母親から会社に
クレームが入った。
「あのヘルパーの接し方はおかしい。
年頃の男の子が、男の人に抱きしめられているなんて。」と。

会社からの通達はこうだった。
「仕事時間内は、子供の安全と自立を促すのが方針です。
ハグぐらいはしますが、全てを受け入れるのはいけません。
それを他人に見られるようでは、なおいけません、以後注意して下さい。
他人に見られないような、自宅などで甘えられる分には仕方ないですが。」
との事だった。

私はその意向に従った。
彼にそれを教え、彼も納得したようで以降は外での、そういった行動はしなかった。

私は思う
安全は解るが自立とはね〜、随分と立派な建て前だぜ。
そういった事は、1+1の計算ができる者にするべきだぜ、
自分の名前を、すべて書ける子に教えるべきだぜ、
順番が逆なんだよ!
あの子等が一番欲しているのは何だと思ってる?
愛情なんだよ、それしかないんだよ!
愛情を注ぎ、甘えさせ、信頼関係を築いてから、初めて躾だろ?マナーだろ?
頭ごなしに自立なんて、それは強制的な威圧で縛っているだけさ、
甘えという過程をすっ飛ばしておきながら、
腐った考えを新人に押し付けるんじゃねぇぜ、
あんたらが、その責任を今まで果たしてきてないから、俺に甘えるんだろ?
人目を気にして自立だと?
それじゃ子供らの気持ちはどうなる?
子供らの気持ちを受け入れてこそ、本当の介護ってもんだろ、
それがお世話するって事じゃないのか?
お前ら監視人のつもりか、それじゃ刑務所と変わりはしないぞ、
だいたい、彼らだって誰彼と甘えているわけじゃないんだぞ。
自立だと?何をカッコつけてやがる、
なりは18歳でも、中身はまだまだ子供じゃないか、
まだまだ甘え足りないんだよ、ゆっくり甘えの中で教えてやればいいんだ。
それを疎かにして、やってなかったのは、お前らじゃないか、
その事にさえ、お前らは気づいてもないだろう?
こういった教育の仕方を、知りもしなかっただろう!
その子のペースで考えるって事を考えもしなかっただろ?
見せ掛けだけのスローペース、諦めのスローペースだっただろ?
国や業界や会社の方針だからだと?
そんなことだから、いつまでたってもダメなんだよ、
糞虫みたいな連中しか集まらない、ゴミタメみたいな業界になっちまうのさ、
だから賃金も安いんだよ。
ちっとは目を覚ませ、ちっとは考えろ!!!

と、まあ悪口が長くなってしまったが、そう思った。

こういった、言われてみれば誰にでも理解できる普通の常識が、おおいに
見落とされているのが現在の介護業界の実態なのだ。
その後、私とその少年のとの間で大きな問題が起こる。
そっちの問題は、読む側としては今回より数段面白いよ、期待していてくれ。
私としては、はらわたの煮えくり返る思い出なんだけどね。
(今回書きたいのは、この後の話だからね。)

私のような無力な人間が何を言っても始まらないが・・・
願わくば早期に、現場の人間の意識革命を促す何かの方策をとらなければ、
利用者は可愛そうだよ。
その一端を担えるなら、喜んで働きたいとも思っている。

さて、この話は長くなってしまうので次回にしよう。
私もそろそろ寝る時間だ。

265520(582)  H24 8月29日   PM14時15分