象の背中

年末が近づき今年も終わろうとしている。
最近スカウトマンを断り続けているので、電話もすっかり
鳴らなくなった。
たまに訪れてくれる将棋友達か、釣り友達に、
「世間の動きはどうですか?」
などとのどかな風に話はするが、本当は心中穏やかではないのだ。
このままでは、そんな会話も出来なくなるかもしれない。

先日、園芸友達も久しぶりに来てくれた。
この人の甥っ子に当たる人が、最近芸能界デビューしたそうだ。
「JULEPS」というバンドのボーカルだそうで、役所広司
演じている「象の背中」という映画のアニメ版の主題歌を、その
甥っ子さんのグループが歌っているそうだ。
なんでもオリコン11位になったそうで、私は知らなかったが
歌に興味のある人なら知っているだろう。
今夜もNHKで放送されるそうだから、ちょっとしたブレイクと
言えるかもしれない。
数ヶ月前にデビューしたばかりだというのに、スケジュールも
びっちりだそうで・・・たいしたもんだ!羨ましいものである。
私の周りで景気の良い話はこのくらいかな?

こんな感じの寂しい私の携帯に一本の電話が。
しかしその着信は昼前で、私が寝起きてその着信に気付いたのは
着信から2時間も経過した後だった。
電話してきた相手は、なんと○○だった。
前回に映画を観に行ったとき、なんだか冷たい言い方をされ、私の
方からは電話を控えようと思っていた○○からだったのだ。
「これが押し引きというやつか!」
私は幸運の天使がちょっと振り向いたような気がして、取るものも
手に付かぬ状態で速攻で電話を掛け直した。
「おはよー今、目が覚めたよ・・」と言う私に
「遅いな〜朝に参加しなきゃダメじゃ〜ん、池袋に用事があった
 から電話したのよ、池袋を詳しいだろうから聞こうと思って。
 でももう用事おわっちゃった。
 それに沖本さんと会うつもりはなくってよ、聞くだけ!(笑)」
と、まあ小悪魔的な○○の明るい声が返ってきた。
ちょっとムッとしたが、起きるのが遅かった私がいけないんだと、
気を取り直し会話を継続。
彼氏とは上手くいってるらしいが、何故かクリスマスの予定はない
そうだ。正月も家で何かをしているだろう?みたいな、とても上手く
いっている彼氏などいないと思われる彼女の答え。
本当は彼氏などいないと私は思っている。その証拠に私と会っている
間中、それらしい電話もメールも彼女は一度も受けてない。
まあそんな事はどうでもいい、たとえ彼女がどんな性格だろうとも、
どんな目的であっただろうと、私に連絡をくれた事が嬉しいのだ。
「俺さ、正月に家族旅行で山梨の石和に行くんだよ。
 あそこって宝石とか水晶が名産なんだけど、何か欲しいものある?」
と聞くと、
「水晶か〜、う〜ん石には凝ったのよ、だから大体あるわねぇ」と、
お嬢様の○○らしい愛想のない返事だった。
それでも何か欲しいような、ニュアンスのある「う〜ん」でもあった。
彼女に吟味されると、とんでもなく高価な代物をねだられる気もした
ので、間髪入れずに
「じゃあ、信玄餅にするか」ということで、そうなった。

「ちょっと早いけどメリークリスマス、良いお年を」
私はそう言い電話を切った。
本当はもう一押しして、その時期に会う約束をしたかったところだが、
年明けの信玄餅を渡す時まで連絡もしないでおこうと思っている。
こういう間柄でもいいと思っている、しつこく思われて着信拒否されて
友達の縁を切られるよりは、この方が全然いいと思うのだ。

84619    12月21日   PM9時40分