ビワ

車窓に揺られ沿線の景色を眺めながら回想している私。
大きな青黒い葉っぱを茂らせオレンジ色の実をたわわに実らせるビワが
目に飛び込んでくる。
もうこんな季節なんだな、ちょうど一年の半分を過ぎた頃に熟れるビワは
季節の到来と時間の経過を同時に教えてくれる・・・もうすぐ夏か。

幼い頃、名古屋の社宅の敷地内に二階まである大きなビワの木があった。
大きな木で日の当たる上の方に実が沢山成っていて、一階に住んでいた幼
い私は実を取れなかった。それでも二階に住む人が枝ごと切ってくれて家
族で食べたのが、たぶん初めて食べたビワの記憶だと思う。まだ幼稚園に
通う前だったと思う、今にして思えばあの頃は近所付き合いも普通にあっ
たのだろう。その時食べたビワが美味かったのか不味かったのかは記憶に
ないが、「オレンジ色の実は食えるんだ」と漠然と感じたのだろう。その
年の秋近くの原っぱの真ん中に一本だけ木があり、一つだけオレンジ色の
実が鳴っていたので食べてみたら、ひどく不味かった。それは柿の木だっ
たそうでたぶん渋柿だったのだろう。
子供の頃は田舎で育ったので、柿やイチジク、トマトなどを盗み食いする
のは一種の年間行事のようなものだった。その中でもビワは一番最初の獲
物なのだ。
中学生になると「美和」という子が好きになり、美和ちゃんにビワを口移
しで食べさせたいなどと淡い思いを抱いたりしたものだ。
結婚してからも子供と散歩中にビワがあると取って食べさせた。子供はビ
ワを気に入り、「もっと食べたい」と言うので「いいか、果物屋で買うの
とこうやって盗って喰うのは味が違うだろ!」などと悪い事を教えたりし
て、ハシゴ持参で夜襲をかけ大量に収穫する計画をした。ところが翌日そ
こへ行ってみるとカラスが無数に木にたかっておりビワの実は全滅してお
り残念な思いをした。ちょうど5〜6年前、カラスが害鳥として騒がれて
いた頃の話だ。
近年ではジュンと近くの公園にいたら、ビワが成っていたので取って食べ
させようとしたら「それ嫌い」と言われたので私はジュンに種をプッと吐
いて「ロケット攻撃!」なんてやって遊んだのを思い出していた。

都会の車窓からも、ちょっとした季節感や思い出に浸れるものだなと思い
ながら目的の駅で下車し自動販売機でタバコを買った。ところが320円
を入れマルボロメンソールを買ったつもりが、出てきたのはハイライトメ
ンソールだった、「ちぇっ!紛らわしいパッケージだな!!」と仕方なく
ハイライトを吸いながら10メートルほど歩いただろうか、そこでふと、
ハイライトだったらマルボロより安いから、つり銭があるなと気付き販売
機に引き返した。だがすでにつり銭は誰かに持っていかれていた。
まったく油断も隙もあったもんじゃない!
さっきまで回想にふけっていたのに・・・・心の余裕をもつ暇もないとい
うのだろうか?大都会ってヤツは住みにくい場所だぜ!!!

53694(461)     16〜18日  PM2時5分