小村井 香梅園

墨田区にある香取神社という小さな神社があり、その境内に香梅園という小
さな梅園がある。その昔、近隣に梅屋敷と称された名園があったそうだが廃
園になったため当時を偲んで、数年前に再現されたそうだ。地図で見ると狭
い敷地内に如何程の?と、微妙な疑心はあったが神社を訪れてみるとそこに
は幾多の珍しい品種の梅がキラ星の如く配置され立派な梅園を形成していた。
梅の品種はその判別が非常に難しい、故に細心の注意を払って鑑賞するのだ
が、私は花の香りの中でも梅の香りを一番好いている。香りに酔うというの
だろうか匂いを嗅いでいるうちに品種の違いなどどうでもよくなってしまい
花に見惚れてしまう。今年は暖冬で開花率もいい、晴天の冬空に凛として咲
き誇るあの美しさは何に喩えればいいのだろう?梅の匂いに誘われてもう近
い春の訪れを知り、心なしか奥底に「目覚め」の様なものを感じた。
今日は堪能したので今は睡魔に襲われつつある、目と閉じれば走馬灯の如く
数々の品種が浮かび、そのまま眠りに引き込まれそうだ。桃源郷という言葉
があるが、私は梅に囲まれるとそういうトランス状態になりその状態を脳の
奥のほうに微かに感じながら眠りたいと、今思っている。今の私は思考能力
も失いつつあるので、宋時代の古人が梅を讃え詠んだ詩をそのまま記す。

衆芳の揺落して独り喧けん     風情を与め占して小園に向かう
疎影は横斜にして水は清浅なり   暗香は浮動して月は黄昏なり
霜禽は下らんと欲して先ず眼を偸み 粉蝶の如し知らば合に魂断ゆべし
幸に薇吟の相いなるべき有るも   檀板と金尊とを須いざるなり

32658              13日AM0時55分