空蝉(うつせみ)

台風一過、夏の青空が戻ってきた。
暦の上では残暑だが実際的にはまだ猛暑が続く季節だ、短い日本の夏
だから、せめてもう少し・・・。
短いと言えば蝉の成虫も寿命が短い、蝉に限らず虫の成虫は交尾が目
的だから殆どの虫は成虫期間が短いものだが、なじみのある蝉の話を
今日は書いてみることにしよう。
アブラゼミ、この季節よく目にする茶色いオーソドックスな蝉。
昔の油は精製が不十分だったのだろう、だから茶色い色、油色からア
ブラゼミの命名となったのだろう。
幼虫期間は7年、成虫は1週間しか生きられない。自然とはよく出来
ているもので必ずオスの羽化が初期である、メスの蝉は産卵をしなく
てはならないので、最初に羽化したオスが鳴きだした頃ようやく羽化
をする。ちょうどこの時期に羽化するのはメスが多いという事だ。
先日も幼虫を捕まえてきて庭の松ノ木で羽化をさせてみた。翌朝みて
みると抜け殻だけがあり蝉はいなかった。ところが足元の茂みで羽を
羽ばたく小刻みな音がする、脱皮したあと松ノ木から落ちてしまった
のだろうと、羽化間もない蝉は体が柔らかく地表に落ちるとアリなど
の餌になってしまうのだ。落ちてしまった蝉を救出しようと姿を探し
た。だが音の主は蝉ではなかった、スカシバというスズメ蛾の一種で
あった。このスズメ我は、卵を産むと気持ちの悪い大きなイモムシと
なる害虫である、だからすぐに殺した。
自然界では何の罪もない虫ではあるが庭の中では害虫。蝉を助けよう
として、たまたまそこにいたスズメ蛾は見つかり殺される。この行為
は人間のエゴ以外のなにものでもない。同じ虫であるが人間の都合に
よって片方は抹殺されるのだ。この縮図を人間世界のあちこちで見か
けないだろうか?同じ人間として生まれても少し考え方が違うだけで
抹殺され消滅した文明もある。人間とは突き詰めれば、なんと愚かな
精神的に未熟な生き物であろうか。そして私も人として生まれ人とし
て生活するが、人間世界は迷いの世界である事も知っておかねばなら
ないのは悲しい事実である。これからの日本は精神社会に突入すると
いわれているが、果たしてどこまで?という漠然とした不安や疑問は
払拭できない。自分の手で駆除したスカシバであるが、その死骸とい
う事実だけがこの問題の裏づけではなかろうか。

11810(138)            PM12時40分