愛しい糞

自宅の狭い庭に小さな菜園を作ったのが2年前。
初めの年の夏は、ナスとトマトを2本ずつ、後列にはトウモロコシを5本ほどと、隅っこに
ゴーヤを植えてみた。ゴーヤは南国の植物だけあって、近所に御すそ分けできるほど成った
が、その他で収穫できたのはナスが2個だけだった。
去年の春には一面にジャガイモを植えて、別のプランターにトマト、ピーマン、モロへイヤ
を植えたが収穫したのはジャガイモ5個とモロヘイヤだけだった。
2年続きの異常な猛暑だったし、片手までやってたので散々たる結果だったのだ。
去年の冬場からは冬野菜にも挑戦しようと、ブロッコリー、水菜、カブ、を植えたみたが思
うような結果にはならなかった。
そうなると名ばかりの菜園などもう放置状態で、つい最近まで花の咲いてしまったブロッコ
リーやカブに青虫が何匹も這っているという有様だった。
雑草が生い茂り、青虫たちは日に日に大きくなってゆく、ブロッコリーの葉を食いつくし種の
房や茎の表面までかじっていた。一見平和だが自然の摂理もあるわけで、脚長蜂が飛んでき
ては青虫を捕獲し、肉団子にして飛び去ってゆく。
そんな荒れ果てた菜園の中で面白い発見があった。
植えてないジャガイモが芽を出して生長していたのだ、去年収穫した際に堀残したか、小さな
小芋だったのだろう。
そこで今年も何か植えようと、先週トマト1本とシシトウを2本植えてみた。
そして今日は気候もいいので、庭の雑草取りと菜園の土をもう一度耕してモロヘイヤとオクラ
でも植えてみようかと作業していた時だった。
菜園は土を縁側ぎりぎりまで盛っている、その土が縁側の内側に崩れてしまっているのでそこ
を直そうと、縁側下の土をかき集めていたらその中に何やら見覚えのある固形物が!
見かけはコロコロとした土の固まりだが、よく見ると無数の細い毛が練り込まれたたように混
ざっており、縁の下の土中にあったので乾燥していたが全体的にはうっすらとカビているよう
な白っぽい色をしていた。
それは乾燥したメイのフンだった。
毛の色からしても間違いはないだろう。
私は暫くの間その乾燥したメイのフンを手に、しげしげと見つめ思い出に浸っていた。

実子のいない私にとり、メイは子供であり恋人でもあり家族でもあった。
子供に先立たれたり、恋人に死なれたりすると、とても辛いと聞くが私もメイのときにそれと
同等の思いをした。
今でも黒猫を見かけると「メイ!」っと呼んでしまうほどだ。
そのフンを見た瞬間、まるでメイが生き返って目の前にいるような錯覚さえ覚えた。

偶然に発見した猫の糞、たかが獣のクソかもしれないが、されど私にとっては愛しいメイの
生きた証であるのだ。
違うかもしれないが、スカトロマニアの人達の気持ちが少し理解できたような気持ちにもな
った。
だからどうしてもそれをゴミ箱に捨てられず、菜園に肥料として埋める事にした。
その固まりの何万分の一でもいい、今年植える作物の養分となりそれを私は有難く頂戴しよう。
そうすれば何百万分の一でもいいから、私の中にメイを取り込める。
私の細胞の一部となって。
「ずっと一緒にいようねメイ」

255900   H24 6月18日 AM4時55分