白旗
今日で4人目、そして別の一人は意識不明で病院へ搬送された。
ちょと死亡率高すぎだと思わないか?
・
万床で50名もいかない中規模の施設だぜ。
それだけ重症患者ばかりを引き取っているって事だけど、
新人の私としては辛いよ。
・
4人目の人は男性だった、
いつもその部屋からコールが鳴るのさ、
職員はピッチを持たされてるから、全員のピッチが鳴るわけさ、
でも誰もそのピッチにでようとしないんだよね、
・
当然新人の私が、その部屋からのコールに対応する事になる。
「どうしました?」って尋ねても、
コールした相手の
「ウオオオオオオオ〜」みたいな化け物みたいな声なんだよ、
他の職員がピッチにでないわけだよね。
・
仕方なく?でもないけど、仕方なく私がそのコールの部屋へ行くわけさ。
私が部屋に入ると
まるで地獄に仏みたいな表情で私に求めるんだ、
私も初めは何を求められているか分からなかったんだ、
言葉になってなかったからね。
・
でも、その男性のパクパクしている口を見てすぐに察した、
あの口の中は酷いモンだった。
まるで水気がなくて、乾燥したツバや痰のようなものがオブラード
みたいに舌の上や口の中に張り付いてるんだ。
「喉が渇いた」か「水をくれ」だと思ったよ、
だから念のため、私は持っていたメモ帳に「水ですか?」って
書いて見せたんだ。
そしたらその男性は、泣きそうな顔をしてコクンコクンと頷くんだよ。
だから私は即行でナースへ報告したわけさ。
その男性の救世主にでもなれるんじゃないかって気分でね。
・
ところがナースからの返事は
「水?ダメ!」の冷たい一言だった。
ダメの理由は解らない、何かそれ相応の理由があったのだろう、
水気を与えると痰が気道を塞ぐとか、吸痰の手間がかかるとか。
・
私は今でも後悔しているよ、
どうせ死んでしまうなら、あの時、禁を犯してでも一杯の水を飲ませてやるべき
だったと。
私は医療行為の事は解らない、その後ナースが点滴などの処置はしていたみたい
だったが、あの男性が欲しかったのはきっと末期の水だったと思うんだ。
それをやるべきが介護職、思いとどまるが介護職?
では、人としてはどうか?
もし家族ならやっていただろ?
喉の渇きを訴える老人の、最期の頼みにも応じる事が出来ず見殺しにしたんだ。
何もしてやれない辛さはこたえるね・・・
・
結局のところそういう職場なわけさ、
方向性が違うと思わないか?
私が求めたモノは、そんなものじゃなかった筈さ
・
この不景気の時代に、常勤の社員という厚遇、それは私が真人間として生まれ変わる
ための一歩としてはそれ以上ない待遇だ。
憧れの社員、憧れの公休、シフト、厚生年金、まっとうな人々の中での仕事。
素晴らしいスキルをもった経験豊富な先輩たち。
数ヶ月前までは憧れ続けていた環境だ。
・
「鉄の心」を持つのは肝心だ。
だが、乾いた心は持ちたくないんだ!
という事で。
・
ジャーン!!
ついに言っちまったぜ、
施設長に。
・
理由は「持病の腰痛が悪化して業務に支障をきたす恐れ」
って事にしてるがね。
施設長は私を引きとめようと、色々案をだしてくれてるが、私は蹴るつもりさ。
心までは乾きたくないからね。
・
やっぱ、カタギの商売はなかなか大変。
第一回目の真人間生まれ変わり大作戦の敗北宣言だ。
それにしても、
両親だってあんなに喜んでくれていたのにな〜。
ヘルパースクールの皆さんにだって何て言えばいいんだ?
根性なしって思われるんだろうな、悔しいな・・・
この話を心の師匠である例の会長に報告するのも嫌だな〜・・・
どんな事になるやら・・今度は5時間の説教じゃ済まないかもしれない、
極道の世界だったら指詰めだぜ。
ああ気が重い。
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これが因縁星を背負った私のさだめってやつよ。
まったく気が重いぜ、
どうにかなるだろうが、また一から出直しってやつだぜ。
これが作られた物語なら面白い展開ってやつだよね、
実際は、事実他でもない私の身の上に起こっている現実だからね。
いつもの嫌な夢のように覚めてくれりゃいいんだがな〜。
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ちなみに、これを読んでいるあなただったらどうするよ?
↑
あっ、別に意見なんていりませんからね、ただの愚痴です。
自分の人生の主人公である私が解決していく以外に方法なんてない事
ぐらいは理解しているつもりですから。
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まだ介護業界への熱意が冷めたわけじゃないんで、
とりあえず、履歴書でも買いなおしますよ。
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179881 H22 11月21日 PM22時20分