インパチェンス

「ヒロ〜!!、ああヒロ〜・・・」
「今家を出したばっかりだったの、出さなきゃよかった〜」
「ヒロ〜、ヒロ〜、ヒロ〜・・・」
飼い主であろうその中年の女性は涙声で言葉を詰まらせていた。
バスタオルに「ヒロ」をくるみ抱きかかえながら
その女性はその場を去っていった。

私は自転車でメイの餌を買いに、近くのホームセンターへ行った帰り道
だった。
ついさっき通った時には何もなかった。

まだ生きてるのでは?と、近寄ってみたが
目玉が半分飛び出している、息もしてないようだ。
大きなオス猫だった、
白い体に尻尾の先だけ黒く、首には緑色の首輪が・・
飼い猫なんだ・・・
道の向こうで知らないオジサンが何か言ってる
「その家の猫なんだ、もう知らせたから」と言っている。

そこには白く横たわる猫があり、夕刻でも路上の濡れた跡は血であると
分かった。
交通事故だ、嫌なものを見てしまった。

まったく甘えっぷりは一流で、オス猫のくせにメイはすっかり私の恋人
のような存在になってしまってる。
そのメイの餌を買いに私は近くのホームセンターへ自転車を走らせている。

自宅の傍まで帰ってくると
「メーメーメー」と、どこからともなくメイは駆け寄ってくる。
「ニャン」ではなく「メー」であり、その声は私を呼ぶ声ではなく甘える声。


たった今、目撃してしまってショックだったのでヤフー麻雀もせずに日記を
書いている。
ヒロに哀悼の意を込めて、文章も遡って書いてみた。
他人事ではない、メイだって最近では外にいるほうが多い。私が外出するときも
メイはまるで犬のように私の後をついてくる、そしてある一定の場所から先へ
は来ない。それがメイの縄張りなのだろうが、メイはそこで私を呼び続ける。
だから毎朝ヘルパースクールへ通うときもメイの泣き声に後ろ髪を引かれる
思いと、車が危ないのでは?という心配な気持ちでいっぱいなのだ。
考えてもみれば、メイとの出会いも交通事故未遂だった。
あの雨の日に、あの車の急ブレーキの音がなければきっとメイには気付かなかった
だろう。だからメイとの別れも車に関係があるような気がして、何だか今から
怖い気がしているのだ。
ヒロの魂を奪った死神にインパチェンスを捧ぐ。

インパチェンス(学名:Impatiens walleriana)とはツリフネソウ科の植物。
別名、アフリカホウセンカ。花を観賞する園芸植物である。
花言葉・・・どうぞ私に触れないで。

169556  H22 8月9 PM21時40分