幻惑か慣習か

今日は気のすすまない撮影。
約束の時間まで寝ていた私を、業者からの電話にたたき起こされ
るというハプニングだった。
その撮影とは、別メーカーから依頼されている人妻シリーズ。
人妻とか熟女というカテゴリーが、どうも好きになれないのだ。
私は今まで「素人」「始めての」という心の動揺、リアクション
を求めて撮影してきた。それはある意味私の一方的な満足であって
も成立し、女のエロさなどなくても役者として演出するのは可能で
もあった。不器用な動作や言葉の躓きさえも、リアル感としてその
作風は認められてもいた。
しかし人妻熟女シリーズとなれば勝手が違う。
女のエロさを出すにはどうすればいいんだ?という不安が先立って
しまい、撮影開始からコケてしまうだろうからだ。
第一、人妻熟女と言われるジャンルのAVを私は観た事がない。
先人たちの作品を勉強しようとか、そこからノウハウを盗もうとい
う気力さえまったくない。
体(勃起、射精)も反応するかどうか自信がなかった。
中国の「勃動力」という精力剤を服用して撮影に備えてみたが、頭
が痛くなってしまった。勃起はしたが射精は到底無理だった。
やり慣れない事は、すべきでないのかもしれない。
最近の業界に対する不信感から、「もうこれ以上やりたくない」と
いう潜在意識が仕事に対する拒否反応を起こしているのか?

やっとの事で撮影を終え、ぐた〜としていたら知り合いから電話。
「紀恵ちゃんのバックマージンが7万以上貯まってますので」と、
紀恵を紹介した風俗店の責任者からの報告だった。
彼女を紹介したのは確か10月の末、あれから約一ヶ月経過した。
この店のバックマージンは、女の子の手取りの15%を店側が負担
して紹介者に謝礼をするシステムになっている。
逆算すれば彼女は、ここ1ヶ月で45万円以上稼いだ事になる。
彼女は毎日でもなく、確か週末以外は早番だけしか出勤しない筈だ。
それだけ稼ぐ店を紹介したのだし、紀恵は元々私のでボランティア
だったのでその分ぐらいは貰っておこうか?とか、仕事枠も大幅に
減少したので生活の足しにしようか?などと小さな私だ。
「ボランティアなんだろ?それなら今更お前が受け取る金じゃない
 じゃないか!小金に眼が眩みやがって、紀恵が稼ぎだしてお前が
 減収になったからといって卑しい奴よ!!」
そんな別の声が私を叱咤する。
「貰っとけ貰っとけ、今から生活が苦しくなるんだぞ。小金だって
 金は金だ、紀恵が働く限り毎月だぞ!困った時はお互い様だ。」
そんな声もする。
「良い人ぶってんじゃないぜ、当然お前が返してもらう金だろ。
 お前が貰ってやらにゃ、店側だって心苦しいもんだろ?それとも
 そっくり紀恵にやるか?サンシャインより喜ぶぜ。」
さてさて、どちらが現実的には良い判断なんだろう?
些細な金額ではあるが、こういう時に私は目に見えない何かに、自
分を試されているような気がする。

82662(143)   10日  PM8時25分