夏の夜

性奴見習いの「茜」は、それきり連絡をして来なくなった。
「おい茜、そのうち小便も飲めるように仕込んでやるからな」と、激励
の言葉をくれてやったのに、なんと不甲斐ない事だろう。見習い生なら
それらしく「今日はお邪魔しても宜しいですか?」ぐらいの気構えがあ
ってもいいものだ。名器であるだけが取り柄のような女だったが、本人
から連絡をして来ないようでは失格だ、金だけが目当てだったのだろう。

アキの「手乗り計画」は、順調に進んでいる。昨日は膝枕もできるよう
になった。膝枕をしながら、お尻と腿を抱きかかえても文句を言わなく
なった。あれだけ私を警戒していたアキの筋肉も緊張しなくなったよう
だ、脈拍の乱れもなくなっている。ダンス好きなアキの腿は、張りがあ
って心地良い。きっとSEXもいいのではないか?
「沖本さんとは、お友達なんだから〜、でもこれ以上はして来ないと思
うから」、などと言っている。
そうだ、きっと私は純粋な女友達というものが、今までなかったのだ。
膝枕も、友達にしては行き過ぎた行為かもしれない。私にしてみれば甘
えるという行為が、「最大限に心を開いている行為」だと分かって欲し
いが、そんな押し付けも良くないのだろう。女友達という関係には初心
者である私は、エスカレートして性奴教育へ移行してしまわぬ様に気を
つける必要がありそうだ。肉体関係のない不思議な?関係も、慣れれば
悪くない、むしろこの関係を継続させたいと思いつつある。

「私ね、小学校の低学年のころ、一年くらい入院してたの。病名は白血
球がどうのこうの・・・っていう・・・ハッキリした病名は親からも聞
いてないわ。同じ病室にね、ちょっと年上の「お姉さん」がいてね・・
そのお姉さんて、骨と皮だけで、顔も青白くて・・・幽霊みたいで怖か
った。」
「アキ、お前どんな病気だったんだ?それって白血病じゃねぇの?」
「えっ?!そうだったのかな〜!!」
「だってよ、ただの小児科じゃないだろ?その部屋には他にいたの?」
「ううん、お姉さんがいなくなってから私だけ・・・」
「個室みたいなもんだな、ナースステーションから近かっただろ?」
「うん近かった、でも・・・え〜っ!そうなのかな?」
「危なかったな、ひょっとしたら今頃は・・・」
アキは、驚きながら涙をぬぐっていた。30年近く経過した今頃になっ
て、定かではないがそうであろう当時の真相を知ったようである。お姉
さんの顔を思い出してしまったとも言っていた。そのお姉さんのベッド
は、アキが入院した数週間後には、お姉さんの親族が片付けていたそう
である。

入院しているヒロ君を気遣い、「気持ちが分かるから」と、アキが言い
出した話ではあるが・・・こんなドンヨリとした夏の夜には、怪談めい
てゾッとさせられる実話だ。

「だからか?お前、自分が死んだ事、気付いてないだろ?」
「え〜?私生きてるよ〜」
「いや、お前は一度死んでるんだ。死んだ事に気付かない人間は何度も
繰り返し生き返り、死んだ事を理解するまで長生きするのさ」
「え〜!え〜?」
私はブラックジョークで茶化したつもりだった。一度死んだんだから、
怖いもの(私)もないだろ?生きている喜びを実感しなよ。という意味
だったんだけど・・・。
アキにはショックだったのか、それとも私のジョークに便乗してくれた
のか、「え〜」とばかり言っていた。
友達に会話を合わせるという、アキの高等テクニックだとは思うが・・。
それでいいんだな?と、かすかな友情のようなアキの優しさを感じてい
る私だが、これで良いのだろうか?
女友達とは、そういうものなのだろうか?

61101(221)    31日 PM10時40分