果実

市や町が住民に農地を貸し出す制度がある。
通常「家庭菜園」と称し、希望者一戸あたり数坪の区画を1年契約
で、貸し出しているが希望者の多い地域では抽選となる。
全国の市の中で、人口密度が一番多い蕨市ではその分希望者も多く
毎年抽選が行われ、確率が50パーセント以下の場所もある。
実家でも、毎年申し込みをしているが去年は抽選もれしてしまった。
今年は幸運にも当選した。
今日はその菜園を耕しに行ってきた、やはり土にまみれ汗をかくのは
良いものだ。私などは参加者の中でも若い方で、その殆どが高齢者で
あるから「若い人がいるといいですね」と、一緒にいる父親が他人に
言われているのを聞くのもなかなか気分の良いものだ。そう言ってく
れる人の畑も耕してやりたくなるものである。
今日のような晴れた休日は特に賑わい、小さな菜園も活気に溢れる。
日本人って農耕民族だからな〜と、ルーツを思い浮かべながら手にし
た鍬に力を入れると、掘り返された土の中から「ハサミ虫」が出てき
た。「おっ!これは撮影に使えそうだな!」と、下賤な企みを思いつい
てしまう自分を打ち消しながらも・・・。
下賤といえば、この「家庭菜園」にも収穫期に盗人が現れるそうだ。
高齢者たちが丹精こめた作物を、目的は何か知らぬが盗むらしい。
広い土地ならいざ知らず、数坪の狭い菜園でせっかく老人が丹精した
作物を盗むのである、「気が知れぬ」とは正にこの事だろう、食うに
困っての所業とは考えにくいからだ。
私の仕事も似た様なもので、「せっかく育てた大切な娘をAVに」
と、思われがちだが私の場合は仕事として成立させているのだ。その
本質は根本的に違っていても、賛否両論があるのは仕方がない事だ。
その是非を論じても「本当の答え」は当事者しか知らぬのだから、あ
えて私も正当化する気は更々ない、私でさえ心がズキンと痛む時があ
るくらいだ。
菜園の入り口には盗人への警告として、張り紙に一句ある。
「人の世の 悪しき心と降る雪は 積もるにつけて 道を忘るる」
私も初めてこの句を見た時は、自分の仕事が嫌になったもんだ。

45253 (85)          13日AM1時40分