激突 スピルバーグ

離婚した前妻には、再々婚した旦那との間にできた子供がいる、もうすぐ1才にな
るそうだ。まだ言葉は喋れないそうだが、伝い歩きを始めているそうだ、可愛い最中
だろう。私は子供好きなので羨ましい、本当なら私にも5才になる子供がいる筈だった。
前妻との間にできた子だったが流産してしまった、その話は(あの頃3)でそのうち詳
しく書こうと思っている。 前妻とは今でも時々話したり、会ったりしている 私が過
去を反芻しているうちに、子供(結婚時に育てていた子)は、あっという間に成長して
しまっており、まるで私は干潮時に取り残されて身動きできなくなっている魚か、過去
の遺物のようになっている思いだ。
過去の遺物といえば、この前気が付いた事があるので今日はそれを書く。
結婚生活している頃、よく二人で見ていたビデオにまつわる当時の二人の習慣だ。
スピルバーグ監督作品で、「激突」という氏のデビュー作がある、内容は恐妻家の妻を
もつ弱気な主人公が、乗用車で運転中に大型トラックに嫌がらせをされる、それは主人
公の妻が仕組んだ罠なのだが、何も知らない主人公は仕事(家庭)の為に命を懸けて
大型トラックと闘うという内容だ。その作品の1シーンで、主人公がレストランに寄り
食事をする場面がある、ライ麦パンにチーズを挟んだ簡単な軽食なのだが、そのシー
ンに合わせ私達二人は、ライ麦パンとチーズのサンドウィッチ、ワインを用意し、その
シーンが来るまで手を付けずに我慢し待ち、主人公が食べ始めると同時に私達もワイ
ンを乾杯し食事を始めるという、ちょっと変わった鑑賞法で「激突」を見ていた。
そして激突を見終わる頃、食事もおわりワインの酔いも程よくまわり、私達夫婦は「夜
のいとなみ」を始めるという、いわば激突やワインは私達にとって、お互いの「今日ヤ
ロうね♡」というサインでもあったのだ。
この前荷物を整理していた時の事だった、重たい荷物の箱が出てきたので「何だろう?
」、と思い中を調べてみると、中からは5〜6本のワインが出てきた。ワインのラベル
は、ちょうど私達が激突鑑賞会をしていた頃の年を示していた。
「今年のワインは出来が良いんだって」・・・・前妻が言っていた懐かしい言葉を思い
出した、「ワインの出来」など興味のない私は当時どのような返事をしたかも覚えてな
いが、今にして考えると妻の言葉の意味は「今日も激突見ようよ、美味しいワインも
買っているよ」か、「私達の子供ほしくないの?」だったのかもしれない。
私は離婚の2年前から前妻とは、一度も床を同じにしていない、なんという夫だったの
だろうという思いと、応えてやれなかった冷たい自分と同じように冷たく「過ぎてしま
った過去だ、奥さんはこうやってワインを用意してたのにさ」と、ワインの瓶に言われ
ているような気がした。 今では過去の遺物となってしまったそのワインも、料理酒と
して活用しているが、私の心はそのワインを見る度に数年前に引き戻されてしまう。
もうそろそろ、「激突」を一緒に見れる相手を見つけなきゃいかんな〜と、いう思いと、
もう結婚は無理かな〜と、いう思いとが混同する今日この頃である。
43843                         PM4時50分