あの頃 2

使い込みが発覚して、家庭も会社も経済的に危機に陥ったが、まだ会社
も健全であったしそれ程のダメージではなかった。広島から呼び寄せた
前妻の弟達で私の会社のマネージャーであった者たちに訳を話して全員
を歩合制にして、会社を維持し建て直しを図った。計算すると数千万の
使い込みであったが、売れっ子モデルが何人か在籍していたのでなんと
かなったのだ。それ以来、お金の管理は私がするようにして、最低の生
活費として30万円は、家に入れるようにした。
問題は前妻の交友関係であった、元々私達の出会いは私が、別の会社の
マネージャー時代に前妻がそのAV事務所でモデルをしていた時の出会
いである。「AV女優と結婚しませんか」というAVで本当に結婚する
という前代未聞の馬鹿げた作品を記憶している人もいるだろうが、その
作品に登場する新婦が前妻だ。その作品の監督は、名前を書くのも汚らわ
しいから偽名で書くが、AVの社会派監督として時々名前を耳にするあ
の陰湿な性格がそのまま顔に出てしまっている人非人として名高い本当
は映画製作を夢見ながら才能もなく、ただただAV世界に噛り付いてい
るしか能のない、しかもプロダクションのモデルたちに現場で悪口三昧
自分は善い人気取り、売れないつまらない作品ばかりを作り、強い者に
はペコペコ、弱いものには鬼の様に、それも理屈で自分を正当化し、古
くからAV業界にいるからといって、それだけで偉いと勘違いをして、
それなりの人との付き合いはあるだろうが、その人たちからも「あいつ
は作品がおもしろくない以前に人間失格なやつ」と、陰口を言われ、脳
軟化で苦しむ内妻がいるにも関わらず、浮気をして平気な顔をして・・
まだまだあるけど、胸糞悪くなるので本当は書きたくないが、そいつの
名前は、(偽名で書く)高月彰だ。  えーと何の話だったかな?
今ではもう私の敵ではないけれど、当時は私が仕事を貰う立場だった。
彼の作品は、前代未聞で面白そうだった、私は一番に立候補したが私は
業界関係者であるという理由で却下された、私は業界の壁に阻まれ意気
消沈したが、そこは雑草根性、必ず朝霧(前妻のモデル名)を奪ってや
ると、固く心に決めてチャンスを待ったのさ。そのチャンスは以外にも
早くやってきた、AVモデル朝霧と、一般人を結婚させ、その初夜を撮影
し、作品は完結する。そこまでは許せる、だがその後もう一つの企画が
用意されていた、その企画とは結婚後に朝霧に浮気をさせ結婚後僅か1
ヶ月以内に離婚するという、人としてしてはならない企画だったのだ。
私はその話を聞いたとき、チャンス到来と思ったよ、だってそうだろ?
結婚する一般人は、何も知らないんだぜ、朝霧だって嫌がってたんだぜ、
法的に考えたって結婚詐欺だろ、それならそんな企画ぶっ潰してやれと
思ったんだ、それには自分が朝霧と結婚してしまえばいい。あとは何と
かなるだろう、ぶっ潰すさまを演出してやれば作品にもなるだろう、そ
う考えたんだ、そしてその日から私は、それこそ100回以上プロポー
ズしてやっと朝霧を口説き落とし電光石火の早業で入籍させたよ。
人間失格監督の事務所に行って、婚姻届を見せ付けた時の彼の顔は忘れ
られないね、あの青白い陰湿な顔が、更に青くなったのが分った。
彼は私に企画妨害損害金として500万もふっかけてきたよ、だけどそ
んなもん屁でもなかったね、この業界は必要悪の世界なんだよ、どんなに
契約してようが判子を押していようが、法的には無効なんだよね。彼は
そんな事も知らなかったんだろうな、だから私も言い返してやったのさ
「あんたの請求金額に一桁増やして、こちらは慰謝料を請求してやるよ
 無理やりAVに出演しろと脅されているってな!」 出ることに出たら
どちらが勝つと思う?当然私のほうさ、慌てた彼は急に「仲直りをしよう
よお願いだから」なんて言って握手をしてきたよ、そしてその光景を撮影
させてくれと、もう一度握手している場面を撮影していたぜ、笑っちゃう
よな。そして私はSEXシーンは撮影させないが、結婚式は撮影させてや
るから式場とその代金をすべて用意しろと彼に言いつけた。
話は長くなってしまったが、そんな訳で私と前妻の共通の知り合いが多く
この業界にはいるんだ、中には私が大事にしてきた取引先とかもね、前妻
も仕事場に毎日のように来ていたから、自然と知り合いになったり、食事
をするようにもなった、ここで内助の功をしてくれれば私も大河ドラマ
主人公のようになれたのだが、前妻はそうしなかった。自分の気に入らな
い人を私と敵対するように仕向けたのだ。自分の美貌をいいことに、相手
にその気があるかのように振る舞い、私には「あの人私を抱きたいって」
とか、「私のためなら何でもするって」とか、「あんたの悪口言ってた」
などなど、私を怒らせるような努力をしてきた、今から考えればそのくら
い私に相手になって欲しかったのだろうが、やっと手に入れた家庭と、初
めて独立し、一国一城の主になった私は仕事に夢中だった。
43088                    AM1時55分

14日PM0時20分
話は変わるが、今日はバレンタインだったな。
目覚めると枕元にチョコレートが置いてあった 交通費もないのにユキの
親から貰ったお金で買ったのだろう、「本命よ」と言われた。嘘でもそう
言われたのは何年ぶりだろうか、嬉しかった。ユキコは5時には以前から
知り合いの学会青年部で、5才年下の彼氏候補に会いに行くそうだ、その
彼と結ばれた方が彼女にはいい筈だが、この彼と会って最初で最期のキス
をしてくるそうだ、その彼と付き合えばいいのに。私は初めから言ってい
る、「あくまで仕事での擬似恋愛だ、俺なんかと深い仲になるなSEXも
しなくていいんだ、彼氏をみつけろ、お前が独り立ち出来るようになるま
で面倒をみているだけだぞ、これからもお前のような行く当てのない子が
ここに住む事もあるんだ、割り切ってくれ、特別な一人ではないんだよ」
と、再三言っている。事実多いときは、この狭い部屋に6人で住んでいた
事もあった。ユキコは私の言葉を理解しているのだろうか?
43136                     PM0時45分
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14日PM7時
やっと出先で用事を済ませて帰って来た、ぎっくり腰の腰痛さえなければ、
今日のような日こそ、気温は暖かだし快適な日と呼ぶにふさわしい日だった。
師の口利きで新しい仕事も決まり、幸先がいい。「あの頃2」の続きを書こ
うと思っていたが、恐妻家の悪口は明日以降としよう。ちょっとした心境の
変化があったから記しておく。
腰痛は昨日より悪化し、歩行も容易ではない、16日からの旅行を控え心配
である。用事を済ませて池袋の事務所へ帰る途中、ビックカメラに寄り買い
物をした。撮影用の照明ランプと、ミニDVテープである ランプのほうは
取り寄せと言う事だったので、2Fのテープ売り場でいつもの様に10本入
の箱を2箱買おうとしたが1箱しかない、店員を呼びつけて在庫を調べても
らったが、その店員の待たせること・・15分近く待たされたであろうか、
こちらは腰が痛くて立っているのも辛いのだ、店内で座る訳にもいかない、
何故10本入りを買いたかったかと説明すると、10本入りは3650円、
5本入りは同じ製品でも2180円だからだ。 やっと戻ってきた店員に、
「いつまで待たせるんだ?!この野郎!」と、よほど言ってやろうかと思っ
たが、その元気もないほど私は弱っていた。結局、在庫はなく しぶしぶ
10本入りと、5本入りを2箱をレジで清算する事になったが、こういう時
ほど長蛇の列、ここは人気ラーメン店じゃないかと思ったぐらいだった。
やっと私の順番になり、「8010円です」と、乾いたレジのネエちゃんの
声、私はポケットから1万円と10円を出しながら、ほんとなら差額を割り
引いて貰いたいもんだと思い、お釣りの2000円を受け取ろうとしていた
時だった、「あれっ!!」と、レジのネエちゃんの驚嘆の声、私は、しまった
!一万円と間違えて5千円を出してしまったのかと思った、それとも偽札か?
とも思った、だがどちらでもなかった。ネエちゃんが、レジ脇にあった鐘を
いきなり振り回したのだ!!「何事だ?俺は何も悪い事などしてないぞ!」と
、とっさに思った。鐘はカラン!カラン!カラン!と、店内に響き、私は
注目の的だった。そしてレジのお姉さんが弾むような声で「おめでとうござ
います!100人に1人無料でございます!!」と、言ってくれたのだ。
8010円分のポイントサービスまでつけてくれた、私は「そうなんだ〜!
もっと高いの買えばよかったよ〜!」と、言ったが内心は嬉しくて腰の痛み
も忘れていた。  臨時収入は嬉しいものである、私はご機嫌である。こん
な日もたまにはあるんだな、浮いた金でユキコに服でも買ってやろう。
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