嘘つき熱帯魚屋

快晴、少し風あり。
釣りに行こうかと思い、昨日から準備したいたが体が重くてそれどころ
ではない、昨日も早起きしようと例の薬を大量に飲んだからだ。健康な
人なら私の一回分で翌日はまともに歩けない程の強い薬なのだが、その
薬は私にとって、多少の睡眠効果がある、ただ飲みすぎると翌日がつら
くなるので、どうしても早起きする時は薬を飲まないで、そのまま起き
ているほうがいいようだ。2日ぐらいなら寝なくてもさしつかえないし、
寝てないほうが頭の回転がいいような場合もあるからだ。
昨日、危うく火付けの犯人に間違えられるという危険を冒してまで拾っ
てきた水槽を組み立てた スイッチを入れると見事に稼動した。
私は嬉しくなり熱帯魚屋へ行き、「水槽が一つ増えたのだが、どのような
魚の組み合わせがいいか」聞いてみた、そこの主人は隣の家に年老いた母
がいて食事など全ての面倒をみている、だから本職の熱帯魚屋のほうは
おろそかで、種類も少なくたまに「ホンコン産、マレーシア産入荷」等と
見出しが張ってあるのでのぞいてみるが、いつもと変わらず魚は少ない。
「どの魚がホンコン産なの?」と主人に聞くと「あっそれは入荷予定です
よ、ほら日にちも書いてるでしょ」という、よく見ると確かに小さな字で
しかも鉛筆で近日入荷とある。私はこの店を「嘘つき熱帯魚屋」と名付け
てる。でもこの店の良い所は、商売で暴利を取ろうとせず良心的な値段で
あり商品に対する本当の事(ノウハウ)を惜しげもなく教えてくれる。だ
から良い客が多いらしく、たまに仕入れる魚も、10日ともたず売れてし
まうのだ、例えばデパートで1000円程で販売している「ベラ」という
魚がここでは200円、「アロワナ」もデパートで15000円程度の大
きさのものでも、ここでは5000円程度。今回20本の「アロワナ」を
仕入れたそうだが、水槽には7本しかいなかった、みな売れてしまったそ
うだ。私が「じゃあアロワナ2本買ってみるか」というと、「お客さん
アロワナは2本では喧嘩しますよ、3本以上なら喧嘩しないんですが、そ
れに一本あたり60cmの水槽を確保しないと、このシルバーアロワナが
成長したときの醍醐味が味わえません、どうしますか?」と丁寧に教えて
くれる。普通の店だったら「まいどありー」ですましてしまうのだろうが
この店は客が買った後までのアドバイスをしてくれる。「分った、1本だ
けにしとくよ、本当は3本欲しいとところだけど水槽を置くところが無い
んでね、その代わり一番でかい奴ちょうだいよ、そいつ持って帰るよ」と、
私が言うと、マスターは私が他に注文した物を包装しながら、一向にアロ
ワナを水槽から出そうとしない、忘れてるのかと催促すると「お客さん、
アロワナ用の水を作るのに3日はかかるでしょ、水の作り方は教えるから 
その用意ができてから魚を買ってくださいよ」とマスターは言う。
私は思う、この様な良心的で、飼育法を客にアドバイスできる者が生物を
売るべきだと。今日の日本、外来種が生態系を乱し始めているが 元はと
いえば知識が少ない者が慈愛心で逃がしたペットが増えたのかもしれない。
自然界で生きている魚を趣味で釣って殺していると思えば、方や熱帯魚を
買ってきて水槽という牢獄で飼い殺そうとしている、人間はなんと自分
勝手な生き物なのだろう。この行動も精神的には知らず知らずのうちに弱
い者への虐待で満足する一種のストレス発散なのかもしれない。その昔、
アメリカの列車が走っている車内から、外にいる野生のバイソンを銃で撃
ち殺して、その数を競うというゲームがあったそうだが、本質的には私の
釣りや、魚鑑賞もそれと変わりはしない。「すまんな俺の勝手のために」
という気持ちがどこかにあるが、実際やってると趣味は楽しいものだ。私
もレジャーを楽しむべきか、修行僧のように殺生を禁ずるべきなのか、悩
むところではあるが、今の私は修行僧のようにはなれそうもないな。
私は熱帯魚の飼育に飽きたら、嘘つき熱帯魚屋(無印良品店)へ引き取っ
てもらうつもりだ。