老練

深夜の3時、飲み屋の帰り知り合いとタクシーに乗り
家路へ急いだ、知り合いと世間話をし時間にして10分
ぐらいで車は高田馬場へ着き、知り合いは降車した、私
はそのまま池袋へ向かうよう運転手に指示し、眠かった
ので寝ようとしたら初老の運転手が私に話しかけてきた。

運 「お客さん失礼ですが、仕事ができますよ」
私 「?」
運 「先ほど降りられた方と、お客さんのお話を聞かせ
   ていただいてましたが、お客さんは仕事のできる
   方です、なんの仕事かは存じませんが私には判り
   ます。」
唐突に運転手は喋りだしたのだ、彼が言うには、彼は建
設設備の経営者をしていたが事業の多角化で失敗し、今
ではタクシーの運転手をしているが、36年間経営者と
して人間をみてきたから、先ほどの私の知り合いとの会
話の中に感じるものがあったと、言うのだ。
私はとっさにバックミラーで彼の目を見た、確かに彼の
目は死んでなかった経営者のそれであった。私は彼と話
をした、今後の日本における経済動向と高齢化社会での
商売や教育の話だった、だが15分程で車は池袋へ到着
してしまい、もっと話をしたかったが残念だった。
彼は最後に、
「商売をするなら、洞察力 度胸 判断力 決断力があ
 れば何をやっても、お客さんなら大丈夫」と言ってく
れた。そして「またお遭いしましょう」と言い名刺をさ
し出した。このような経験はこれで二度目だ。
仮にベテランの営業トークだとしても私は自分が褒めら
れて嬉しかった、今日はゆっくり眠れそうだ。