着信3

玄関にイタズラしたのは下の住民だなどと妻は言っていたが、
私は下の住人とは会ったこともなかったので
「同じマンションに住む住人同士うまくやれないのか?
 お前だって昼間に大音量で音楽きいてるじゃないか」と
妻をたしなめていたのだ。
そんなある日、とつぜんレイプの話を妻からきいても狂言
しか思えなかったのだが、数日後偶然エレベーターで下の
住人と行き会ったのだ、その時の様子は私の顔を見るなり
ビクッと体を震わせ乗ろうとしていたエレベーターにも乗らず
脱兎の如く階段で下へ下りていった。
私はあの姿は明らかに何かやましい事をした人間の行動である
と判断し、あらためて妻の言葉を組み立てて一つの仮説を立て
てみた。下の住人は妻に対し何らかの嫌悪感をもっており、い
やがらせを何度か試みた、ところがそれに動じない妻に焦燥し
知り合いにレイプを依頼した。証拠は何もないただの仮説だ、
だが私の勘は外れたことがない、これに近い事実なのだろう。
話を変えて管理人のはなしだが、彼は実直な青年であるクレー
ムに対しても善処してくれて好感をもてる人物なのだが誰しも
魔が差す事はあるだろう、事が起こったのは去年の台風が日本
を直撃した日だ ベランダに置いていたフルセットのゴルフバ
ックが8Fから転落し1Fのテナントのテントを破壊したのだ、
幸い怪我人はでなかったものの危なく惨事となるところだった。
それにしてもフルセットの重量であるゴルフバックが風にあお
られたぐらいでベランダの塀を乗り越えられるだろうか?
ほぼ同じ場所に置いていた観葉植物は倒れてもいなかった。
その日部屋に入れることの可能な人間は、私と当時スタジオに
住んでいた良太、それに管理人だけなのだ だから私は疑惑を
抱いている。(良太は仕事中でアリバイがある)
そんな訳で、下の住人がクレームを言っても管理人に注意され
ても、心の底で「いい気味だ」と笑っていたから現在までスタ  
ジオを2年間も存続させていたのだ、今回管理人が手を上げて
撮影を中断させ、その制作会社から撮りなおしとしての請求が
きている、こちらからしても営業妨害として損害賠償を請求で
きる立場にある、すなわち期せずして復讐の好機にめぐまれ、
甘い汁まで垂れてきそうな場面なのである。だが私は、あえて
自分の心に検事を付け真摯に対応するつもりだ、映像の中以外
では、私は人の道を生きたいからだ。