契約 2

哀れな男は死後になってやっと我に返り真の姿をみた。
「俺は何のために生きていたんだろう、なぜ満足して
  死ねなかったのだ?」

その時 男の背後から声が聞こえた
「これは契約だからしかたないだろう」
男はふいに言われて仰天した
「俺はこんな契約などした覚えはない、ふざけるな」
そういう男に背後の声は冷静に語る
「何を言う35年前お前が傷ついていた頃私と会った筈だ
 その時お前は悪魔でもいいから助けてくれと思っただろう」
男は振り向くこともできなかったが言い返した
「それは思っただけで契約などしてない」
背後の声は言う
「いや、それこそが私との契約なのだ だから私はお前が望む
 財産を気築かせてやった その代わり死ぬまでの充実感を私
 がお前から貰うぞといっただろう」
男は35年前のあの頃を思い出し唖然として黙ってしまった
そうかあの時が悪魔の契約だったのか・・・
男はやっと気付いたがもう遅かった 途方にくれる男に背後の
声は言った
「契約は終わったんだお前は自由だ好きなようにやれ」
男はそういわれても死んでしまった今ではどうにもならない
どうすればいいんだ?できることなら35年前に戻りたい。
すると今度は男の前方より声が聞こえた
「お前の人生だ、神も悪魔もお前の中にいるんだぞ」
男は涙を流し自分の人生を後悔し闇の彼方を彷徨った、何もか
もが空しかったがやがて無の境地へと誘われていった。
そのときだった
「パパッ パパッ死なないで!!」
どこからともなく懐かしい声 幼い頃の息子の声だった
かすかだが、眩しい声だ 男は必死に。