契約 3

男は必死にその声の方へ歩み、やっとの思いで でも思い切って
目を開けてみた
頭がまだボーとしながら男は目を覚ました。そこは病院のベッド
で駆けつけた家族の姿があった 会社からのお見舞いや激励文ま
であった。
男は目を覚ました瞬間に悪夢の記憶は消えてなくなり、何か悪い
夢でも見ていたかのような感覚としか感じられない男に、可愛い
我が子の泣き顔が今度はハッキリ見えた。
男は仕事上の過労で倒れ一週間生死の境をさまよっていたのだっ
た。 意識がハッキリしてくると男は
「こんなに眠っていたのか、早く仕事に復帰しなくては」
と思ったが、
「でも待てよ 俺は死にかけたんだ」
「俺は何のために生まれてきたんだ?」と思い自問自答した
やがて退院し、今日も男は一通の封筒を持ち会社へ急いだ、
それは辞表であった。
          <故・福間一郎氏に捧ぐ>

福間氏は私にとって仕事上の親父のような存在でした。
食品業界のトップなら(東京サンド)福間一郎の名をご存知でしょ
う、世間では営業の神様、極意の人とまで言われた氏に私は一か
ら仕事というものを叩き込まれ、家族も同然にしていただき私に
「福間家の養子にならないか」という言葉まで頂戴し、幅広い人
脈をとうして広い世間の一端を見せ教えて下さった氏であるが私
と些細なことから口論となり、その場で倒れた氏は帰らぬ人とな
ってしまったが、氏が教示してくれた仕事熱と共に一生の十字架
を私は背負ってゆきます。