心残り2

その子は理絵の一番目のダンナの子であり沖田との血縁はないが
三人のお父さんの中でパパが一番好きだそうだ。

沖田が祖父の言葉を理絵から聞いたのは、ちょうど7月の終わり
だった。
沖田は祖母の言葉に責任を感じている。
(俺が離婚さえしなければ祖母の庭木の手入れもしてやれたのに
毎年来るよなんて約束しなければよかった どうにか死に行く
者を安らかな気持ちで逝かせてやりたい、せめて庭木の手入れ
だけでもしてやりたい) と、それは純粋に老人を哀れむ心と
自分が若いころ実の祖父母に対しロクな孝行をしなかった後悔
からであった。
沖田は考えた
そうだ理絵に提案しよう俺を植木職人として出張させて貰おう
東京から呉までは遠いけど 手入れそのものは二日もあれば
できる、身内のものしか俺が理絵の前夫であると知らない訳
だし今のダンナが祖母の家に来ることはない、理絵が再再婚し
てることは祖母は知らないから 理絵さえうまく取り計らって
くれれば祖母にウソをとおすことは可能だ。そうだよな、もと
もとこの話は理絵の方から言ってきた話だし理絵も内心はそう
思っているかもしれない。
そう思いさっそく理絵に電話で打診してみた沖田だった
ところが理絵の言葉はこうだった
「あんた呉まで来れるお金があるんなら現金で私にちょうだ
 いよ、言っとくけどね離婚してから三年以内は慰謝料の請
 求できるんだからね!!」
沖田は思った、銭カネの話じゃないのになー祖母が亡くなって
からでは遅いのだ、死に行く者が何も知らずに私を待っている
のだ、理絵は何も解ってないな やっぱり理絵と別れたのは
正解だったのかもしれない、いや理絵と結婚した事が失敗だっ
たのだろう。

春、庭木の剪定の季節がくると当時を振り返り沖田は思う
俺はあの時、呉に行くべきだったのか・・・・
10年経った今でも沖田は答えが出せないでいる。