実話1-2

その少年を見守り、付きそう仕事は、約3ヶ月続いた。
私は他の利用者さんへの介護もあったが、割合からいえばその少年へ
費やす時間が一番多かった。
私の仕事のメインは、その少年への付き添いが主であり自然とその少年
と私は仲良しになる。
数いるヘルパーの中でも、少年は私の事を一番気に入ってくれていたようだった。

その間にも
「少年と道で手を繋いで歩くな」とか、
「沖パパ」と呼ばせるな、などの注意が会社からあった。

手を繋いで歩いていたのは、雪が降った当日や翌日、道が滑って危ないから。
また急に走り出す癖のある少年への警戒でもあった。
それを知らずに、よその障害児の親が見て会社にクレームしたらしい。

「沖パパ」と呼びだしたのは、その少年。
私のあだ名であった。
聞くところによれば少年は家で父親を「パパ」と呼ぶことはなかったらしい。
(父親が羨ましかったのだろうか?)
だからこのクレームは、少年の家族からだったろうと思う。
「会社からの説明では、私と実際の父親とを勘違いさせてしまうから」
という呆れてしまうものだった。

そんな事がありえるだろうか?
それなら少年は、既に父親の事を父親と思ってないという事ではないのか?
でも、あらゆる意味で考えればそうかもしれない、
少年が少年の母親以外の家族と会話をしてるのを私は見たことがなかったから。

まぁでもそれは他人のお家事情、会社の方針であるなら仕方ない。
私は素直に従った。

このような不可解、理不尽と思えるような事柄がこの少年に限らず介護業界には
非常に多い。
利用者のことなど考えず、ただ体裁や規則といった建て前重視な業界なのだ。
まるでそれがこの国の利用者へ対する方針でもあるかのように。
「利用者を仕事で介護する」とはそういう事。
末端の1ヘルパーは、それに従わねばならないのである。
優しく介護するとか、気の利いた事をするなどもってのほかなのである。
「余計な事?は、するな」と、厳重注意されるのだ。

それが介護業界の道徳でもあるのである。
利用者が望もうと望まなかろうと、決められた事しかやってはならないのだ。
であるから
「最大の被害者は利用者である」
などと、とんでもない言葉が介護業界では囁かれている。

一般社会では
「極論すれば道徳なんてものは、好意をもたない相手に対して行うもの」というのが
普通ではないだろうか?(これに似た言葉は、どこかの本で読んだ気がする)
そしてその意味を理解していれば、それも一般社会では必要だとは思う、
しかし障害者に対してそれを押し付けるのは如何なものだろう?
世間を知らない障害者には、そんな意味など解らない。
ただ窮屈な、つまらない、又は怖い思いをするだけであろう。
そして、その鬱憤は思わぬ形で噴出すというもの。
その吹き出しを介護業界は恐れて、
「道徳」という公明正大に見える楯で、自分らを擁護しているに過ぎないのだ。

鬱憤、感情の噴出し、これは人間なら誰にでもある。
それは自然なこと、むしろいい傾向ではないだろうか?
それこそが心の成長の証であり、その自体を正しく導いてやれれば、
やれる事さえできれば、妙な道徳よりもずっと効果的なのだ。
素直な心、人間とは、そういった指導によって育まれるものではないのか?
肝心なのはそこではないのか?

さて少年の話に戻ろう。

少年は新人ヘルパーの私に徐々に心を開いていった。
時々細かい決め事も途中で追加されたりしたが、二人はそれに従った。
従ってはいたが彼にも不満のようなものはあったのだろう。
そして案の定、少年が部屋で私と2人でいるときに、噴出しは起こり始めた。

バスの停留所から自宅へ付き添い、彼の部屋にて3時間ほど見守るわけだが、
私は彼の動作を見守り、時には漫画を読み聞かせたり、文字の練習をした
り、或いは彼の気ままな時間を好きなように過ごしたりもする。
言うなれば私は彼の身に事故が起こらないようにだけ見ていればいい。
それだけの仕事である。

彼は部屋へ入るとまず服を私服へ着替える。
それを見ている私。
ところがその日、彼はパンツも脱いでしまったのだ、もちろんわざと。

若いウブな女性なら、ここで「キャッ!」とでも言って、顔を赤らめるのだ
ろうが私は別にそのくらいは何とも思わない。
ただ彼のオチンチンが、勃起していたのにはいささか怪訝な思いはあった。
そんな事が数回あっただろうか、
その行為に私が反応しないと見るや、彼は勃起したままで私に抱きつくように
なったきた。
そこで私が間髪いれずに厳しく接すればよかったのかもしれないが、私はそう
はしなかった。
「だめだめ、そんな事やってたらお菓子食べちゃうぞ〜」
なんて感じで笑いながらいなす程度だったのだ。

男なら心覚えがあるだろう?
幼いころ、好きな子や男同士でオチンチンを見せ合った経験が。
あれは変態行為などではない、好意、敵意のなさを示す原始的な行為だ。

だから私も叱るのではなく、いなしたのだ。
生まれつき逆境にある彼にとって、たぶん心を開ける相手などそうはいなかった
だろう、学校でもこれをやった事があるかどうか。
今彼は、最大のアピールをしている、可哀想なヤツだなとも思ったからだ。

だがやがて、それは私の思い違いである事に私は気づく。
確かに彼は初めこそ、純粋な敵意のなさとか、ある種の温もり欲する動作をを示そ
うとしたのかもしれない。
私もその場でしっかり叱ってやればよかったのかもしれない。
叱ってやれなかった私の非も認めねばならない。
日を追うごとに彼の行動は次第にエスカレートしていった。

彼は純粋な心だけをもっていたのではなかった。
犬のように私に腰を押し付けてきたり、私の陰部を弄ろうともした時もあった。
漫画のエッチな部分を指差して「そうしてくれ」みたいな要求もしだした。
彼は無抵抗な私に、性的な欲求の真似事のようなものを求めだしたのだった。
「純粋な障害児の仮面は剥がれたのだ」、などと書けば聞こえが悪いだろうが、
これは抑圧された彼流のアピール、理性を抑えきれないんだな、私も軽率ながら
「やっぱ流石だな」と、侮蔑とも困惑ともどちらとも思えぬ気持ちが湧き上がった。

だから聞いてみた。
「なにタカちゃん、この漫画みたいなこと僕としたいの?」
すると彼は真面目な顔で答えた
「やだね、俺はオネエさんがいいな」と。
それにはちょっと私も驚きだった。

話を聞いていくと、彼は意外にも知っていた。
フェラもSEXも、そして股間から人間が産まれてくる事も。
彼のその情報源がどこだったかは判らない、兄貴だったのか、学校だったのか、、
親だったのか、DVDだったのか・・・
だが、彼が性欲のはけ口として、オナニーや射精を経験していたかどうかまでは
判らない、そして私もそれを教えるわけにはいかない。
そこで
「こういう事は大人になったらやるんだよ、僕はヘルパーだし」
と言うと、彼は
「お前は言う事をきけばいい」というような意味の言葉を言った。

その彼の言葉が本当にそういう意味だったのか、彼がいつも言われてきた言葉だっ
たのかは判らない。甘えの延長だったのか、性の衝動だったのかも定かではない。
だが彼は明らかに、自分の意志で私を支配したがっているように私には感じた。
当然のことながら、その先を受け入れるつもりはない。
だから優しく
「そんなこと言うと明日から来ないよ、別のヘルパーに来てもらうよ」と言った。

すると彼は半泣きの顔になり、泣き顔を見せたくないのか風呂場へ入っていった。
そして追いかける私を振り払うように、浴室のドアを内側からかけシャワーを
浴びだした。
ちょっと可愛そうだったかな?とも思ったが、オナニーの仕方を教えてやるわけ
にもいかないし、どう言えばよかったのだろうと思っていた。

浴室のドアーは、すりガラスになっており彼が椅子に座り、体を洗うのでもなく
頭からシャワーを浴びて動かない様子が、ガラス越しに見えていた。
私は脱衣場に取り残され、彼が笑顔になってシャワーから出てくるのを待つしか
なかった。

〜少年との事件はこのあと起こります〜  実話1-3へ続く。

268362 (255)  H24 9月13日  AM9時50分