父さん

元息子ヒロ君は昼過ぎにやって来た、数年ぶりに会った彼は想像したとお
り私よりも背が大きくなっていた。交わす会話の声も電話のそれのように
低く無愛想だったが、顔はまだまだ幼さが残っていた。無愛想な仕草は少
年から青年に成長する段階の反抗期特有のそれであるとすぐに分かった。
この春、ちょうど中学の2年生になる前の春休みという事で東京に別の用
事でこちらへ来た母親(前妻)にくっついて来たようだ。母親とは羽田空
港で別れたそうである、思春期で反抗期の彼の行動らしい。
私の事を「父さん」と呼んでくれた、何とも嬉しい限りじゃないか。
私も元息子などと思わないようにしようと「ヒロ君」と呼んでいる。
前妻に電話すると、たまたま仕事の相手にキャンセルが出て、時間が空い
ているというので池袋へ来るように言ったところ「だってヒロ君がそっち
にいるんでしょ?」と、まるで子供に遠慮しているセリフ。私にはピンと
きた、普段からこの母子はロクに会話もしてないなと。そこで私は前妻を
駅前の喫茶店に呼び出してヒロ君を伴って二人で会いに行った。私が思う
に、前妻は初めから仕事の予定などこの時間になかったのではないだろう
か?子供との間合いが不得手な前妻が過敏に遠慮した結果ではなかったの
だろうか?喫茶店で席についたが、ヒロ君はメニューを注文しようともし
ない、きっと母子での食事という機会はここしばらくないのだろうと推測
される。
前妻はカウンセラーとしての資格を得て、月に2度ほど上京することにな
ったそうだ、企業や経営者を相手にカウセリングとは結構なご身分だ、カ
ウンセラーの講師の資格とやらも取得したそうだが、自分の子供一人のカ
ウセリングもままならぬようじゃね・・・と思って聞いていた。
まるで細木和子みたいだ、あのオバハンもTVじゃ筋の通った話をしてる
けど、家庭では実子すらいない寂しい人なんだよな。当たり前だよな、あ
んな四角四面な考え方じゃ周りの人は疲れるぞ、あのオバハンの常識も世
間では非常識ってことに気付かないかんよね、作法がどうの言葉がどうの
こうの・・・あんた公家か?って感じだよ。あんたの番組は面白いから毎
週観てるけど、あんたのくだらない能書きや占いが面白いんじゃない、面
白いのは司会のジョークで、あんたがコケにされる場面なんだよ。あんた
がタッキーをヒイキする瞬間しか、あんたに人間臭さ(好感)を感じない
のは私だけではないだろう。
早く気付かなアカンのは、あんた自身には魅力はないって事だよ、それに
気付ければ、あんたはホントに押しも押されもしない大人気の先生さ。
話はソレてしまったが、目の前の親子に私はそんな思いを投影して見てい
たのだ。
その後、前妻とは別れヒロ君と二人にて回転寿司を食べ、事務所にて子供
時代の懐かしいビデオテープを観ながら談笑した。そして夕刻には帰って
いったヒロ君だが、帰り際に「夏休みにはゆっくり来るけぇ」と言い残し
てくれた。
いつでも遊びに来ればいいさ、父さんは世間の見本のような人間ではない
し離婚もして苦労もかけた、勉強のような学問も教えられない、だけど中
学2年生の夏休みには、どんな父親にも真似のできないような話で思い出
を作ってやるぞ。中学2年といえばコキ盛り、実父でないからこそ話せる
エロ話(前妻は「もっと大きくなってから」と大反対してるが)だってそ
の一つさ、沖本飯店はそういう意味じゃオカズの宝庫さ。
こんな悪いオヤジかもしれないが、今回父さんに会いに来てくれただけで
も嬉しいよ、ヒロ君さえよければ いつまでも「父さん」と呼んでくれ。

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