差し木

先日送られてきた新しい仕事先の契約書が英文だったので、私は素直
に「読めません」と返信しておいたが、今日になり先方から日本語訳
付の契約書雛形があらためて送付されてきた。
わざわざ私のために日本語訳にして送ってくれた事に恐縮している。
もし私が逆の立場だったら、そうはしなかっただろうからだ。相手が
英文を理解、或いは英訳のできる人間を伴わない限り、仕事そのもの
ペンディングしていただろう。何故なら自分の要求を理解できない
相手とみなし、そのレベルと手を組むのを躊躇しただろうからだ。
だから私もここ数日間は悩みの種だったのだ、私の近辺には英語を喋
れる者はいたとしても法的な契約書を理解し間違いなく私に説明して
くれる者はいない。そこで私も近くの英語教室へ頭を下げにいこうか
と考えていたのだ。
日本語に訳してくれるという先方の優しい気持ちを受け取り、有難い
と思う一方で借りができちまったなというアドバンテージを感じた。
この雛形に双方の意を盛り込み本契約にしていこうと思う。

皐月の差し芽の植え替えをした。
皐月という植物の繁殖は、通常「差し木」である、「差し木」とは
新芽や枝を折って土に差しておくと、根が生えるのである。
6月にあちこちから失敬してきた差し木も、2ヶ月経過したのでもう
差し床から移植して苗として育てる時期なのだ。
枯れてしまった差し木もあったが、発根しているのが30本以上あり
、そのうち半数以上は小品盆栽として数年後には花を咲かせる事だろ
う。植物の苗は仕事でいうなら契約みたいなものである、苗の時点で
素性の悪いものは捨てられるのが一般的だ、そして選ばれた苗の中で
生命力があり尚且つ幸運だったものだけが盆栽として珍重されるもの
だ。
私は植物に対しいつも選ぶ立場であったが、今日選別しゴミ箱に入っ
ていた苗の中から一本拾い出し、その捨てられた苗と心の中で約束を
した。
「俺も今は苗だ、だけどいつかは花を咲かせてやる だからお前も
 花を咲かせてみろ。どっちが先に花を咲かせるか競争だ」

その苗は3cmにも満たない本来なら捨てられる筈の苗だが、数年後
に咲いた花を見ながら今日を懐かしめる将来の自分があればいいと
思う。

8983(190)              PM11時20分