秘密兵器

今日から関東も入梅、昼頃から雨は上がり明日は晴れるそうだ。
ベランダに干してある赤ふんどしが、風にヒラヒラ揺れている。
そういえば私はふんどしを着けたのは初めてではない事を思い出した。
高校2年の秋、手術の後にふんどし状のガーゼ生地の下着を着けていた
あれもふんどしではなかっただろうか?越中ふんどしではなく、おむつ
に近いモノだったとも思うが今となっては記憶が定かではない。
私の手術はカントンヘルニアと呼ばれる脱腸、陰嚢内に飛び出した腸の
一部と睾丸が癒着してしまったので それを切除する手術だった。
簡単に説明すると、癒着した腸とキンタマを切り離すことなのだが、術
寸前にオペ台で執刀医に「あなたはタンガン(キンタマが一つ)ではな
いですか?」と、聞かれるまでは そこまで深刻な状態である事に気付
いていなかった。
術後も麻酔が切れるまでは痛みがなかったので平然としていたものだ。
しかし考えてもみれば、切除したのである。
キンタマを蹴られただけでも痛いのに、私の場合は片方のキンタマの半
分を切除されたのだ。あの苦しみは一生忘れられないだろう。
主治医からは、退院まで早くて2週間だろうと言われていた。
脱腸より軽い盲腸の手術でさえ、回復の兆しであるオナラがでるのに2
日はかかると言われている。幸運にも回復力があった私は翌日の朝には
オナラが出たし、食欲も性欲も手術前と同じようにあった。当然のよう
便意も2日後には襲ってきた、ところが絶対安静とされている私はベ
ッドから下りる事も許されてない、そこで私はそおーとベッドから下り
てトイレで便をする決意をした。傷口が攣り痛さで前身から汗が出た、
廊下を一歩ずつゆっくり たぶん鬼のような形相でトイレへ向っていた
のだが、あともう少しでトイレの扉というところで無念にも巡回中の看
護婦に見つかってしまった。看護婦は悲鳴のような声で「何してんで
すか?!」と叫び、他の看護婦3人がかりで私を病室へ引き戻してベッ
ドの上にて寝姿で看護婦の見ている前で排便をさせた。
ああ花も恥らう高校生の私は、官能小説にでてくる「看護婦との情事」
ではなく、SMクラブも真っ青の「絶対安静ベッド脱糞」という看護婦
監視の羞恥プレーであった。
術後に着けていたガーゼ生地の、オムツともふんどしとも判別できぬ
あの下着・・・
あれから20余年、私は昨日から衣替えで越中ふんどしを着けている。
明日は江ノ島へ遊びに行く予定だ。
鎌倉高校前あたりで江ノ電を下りて海岸をジーンズ姿で歩く。サーファ
ーも多くいるだろうが、「この中でふんどしを着けている奴は私ぐらい
のもんだろう」という、ささやかな優越感で歩いてやろう。
黒字で「秘密兵器」の文字が書かれているやつだ。

2130(118)            10日AM1時55分