大工の源さん
肌寒い日が続き体調も思わしくない。
何か用事があり外出してしまえば大丈夫なのだが、部屋の中で
静養していると気が重い。
やる気が出ず、前向きな考え方が出来ない。
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202号室をリフォームしているようだ。
絨毯敷きの床をフローリングに張り替えているようだ。
工事の音と以前にも増して響く足音に苛まされている。
大家さんには前回の件もあったので「防音にはくれぐれも」と、
お願いをしているのだが・・・・。
まるで「出て行け」とでも言われているように感じる。
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そう感じるのも私がまだ完治してないからだろう。
静養のできる環境でゆっくり静養したいものである。
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寝るときは耳栓も睡眠薬も飲まないようにしている。
「そんな事をしていたら余計敏感になる」と、知人から聞いたから。
元々私の病気の原因は別にあり、たまたま「物音」という八つ当たり
のできるソレに当たっているだけだ。
本当の原因は仕事や、私の性格の中にこそ大いにある事も分かってる。
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ただ最低限の生活環境を主張するのも間違ってはないと思う。
そのやり方が下手で、ちょっと極端なのだ。
うるさい奴、神経質な奴、大人気ない奴、と思われやすいタイプなのだ。
本心では揉め事なんて嫌だし、平穏に静かに暮らしていきたいのに、
それが出来ないのはきっと私に気持ちのゆとりがないからなのだろう。
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気持ちのゆとりがない原因はハッキリしている。
天職ではない職業に四苦八苦し、それも上手くいってないからだろう。
外では人当たりがいいなんて思われているが、それは無理をしているだ
けで所詮メッキは剥がれる。
飲み屋などで油断していると、そんな本性を見抜かれる事がある。
仕事で会う女性からも「第一印象が怖い」と、言われる事が多くなった。
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「40過ぎたら自分の顔に責任を持て」
遥か昔、そんな言葉を恩師から聞いたような記憶がある。
営業が好きな私は、第一印象を大事にする事を心がけていた。
「第一印象は好印象」というのも私の自慢だった。
スーパーで買い物をしていれば、よく店員と間違えられたし、道に迷っ
た人にもよく道を尋ねられたものだ。
今じゃ道を歩いてるだけで職質されちゃうんだから!ダメだね。
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裸の商売でもいいから、私に合った仕事はないかな〜?
仕事を選べる歳でも時代でもないけど、何かないかな〜?
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ところが、こうした鬱屈した時期の私の作品は、きっと高評価なんだよ。
そういった作風だから気持ちが入っちゃうからだろうが、それじゃ女は
たまったもんじゃないよな。
それじゃダメなんだよ、そういった八つ当たりは全て自分に跳ね返って
くるんだ。演技であろうと自分の吐いたセリフはいずれ自分を追い込んで
しまうんだ。どうせ演じるなら感謝や感動がないとダメなんだ。
私の作品なんか誰も相手にしてくれない方が、本当は私の為になるんだ。
それでもやっていかねば生活していけない。
どうすりゃいいんだろう?
困ってる。
この悪循環から、何とか抜け出す方法を見つけなくちゃな。
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これが・・・これが本当の原因なんだ。
上の住人や大家さんに文句を言ってるが、本当は自分が問題なんだよ。
だから、これ以上俺を刺激しないでくれ、こちらはこれ以上言うつもり
はないから、俺に文句を言うきっかけを与えないで欲しい。
明後日には例の悪徳病院で、診断書を書いてもらおうと思っているが、
出来る事ならそれを使わずに済むことを願ってるんだよ。
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